世界で初めて波長域を遠赤外領域まで広げた遠赤外自由電子レーザー装置を納入

2002年05月09日

川崎重工は、世界初の遠赤外自由電子レーザー(FIR-FEL)装置を東京理科大学と共同で開発し、このたびFIR-FEL装置の製作を完了、東京理科大学「赤外自由電子レーザー研究センター」に納入しました。

今回納入した装置は、高周波直線加速器を用いて光速に近い速度まで加速した電子(電子ビーム)を発生させ、多数のN極とS極を周期的に配置した磁場(アンジュレータ)の中を通過させることで光を放出します。放出した光は、1対の合わせ鏡で構成される光共振器内に閉じ込められ、後続して放出される光のエネルギーを付け加えることで増幅し、レーザー光を発生します。このとき、電子のエネルギーや磁場の強さを変化させることで、発生するレーザー光の波長を遠赤外領域である300~1,000μmの間の波長域で自由に変えることができるものです。

FIR-FELは、通信分野での短波長帯域の有効利用や超高速通信などへの利用、またこの周波数帯域の電磁波の特長をいかしたイメージングやトモグラフィーを用いた生物、医学分野への応用、そして環境計測などの各種検査などでの利用が期待されています。また、FIR-FELを発生する光源はこれまでに開発されていないため、多くの研究者の間ではFIR-FEL装置の早期の実用化が望まれています。

今回納入した装置の開発研究は、文部科学省(旧文部省)の「学術の新しい展開のためのプログラム」による研究プロジェクト「赤外自由電子レーザーの高性能化とそれを用いた光化学」(研究期間:平成11年~15年度、研究リーダー:東京理科大学、黒田晴雄教授)の一環として推進されているものです。同研究は、自由電子レーザー(FEL)の波長域を遠赤外領域(300~1,000μm)にまで広げ、FELの利用研究領域の拡大を図るもので、装置納入後は東京理科大学「赤外自由電子レーザー研究センター」にて本年8月から本格的な調整運転に入り、本年度末までにFIR-FELの発振を確認する予定です。その後は得られたレーザー光の詳細な評価を行い、利用研究へと供されることになります。

当社は1995年度より、FELの産業利用に向け独自の線型加速器を用いたFEL装置の製品開発に取組んでいます。そして1998年3月に波長域4~16μmの中赤外域のFEL装置を東京理科大学「赤外自由電子レーザー研究センター」に設置し、同大学と共同で発振研究に取組み、1999年9月には飽和レーザーの発振に成功し、現在活発な利用研究がおこなわれています。

なお、今回納入したFIR-FEL装置の最大の特長は、以下のとおりです。
(1) 波長が長く光の発散が大きい遠赤外光を導光・蓄積するために、内部を鏡面に仕上げた矩形導波管の両端に合わせ鏡を設けた共振器(導波管型光共振器)を採用した装置で、導波管内を進む光と電子ビームとを効率的に相互作用させることができます。
(2) 高周波電子銃と高周波直線加速器を組み合わせて装置を小型化し、高度な機能を備えた装置を省スペースで設置することが可能です。
(3) 装置に組み込まれる加速器をモジュール化し、組立てを工場内で行なえるシステムとし、搬入、据付けの工期を極めて短くすることが可能です。

当社は、今回のFIR-FEL装置の納入実績をもとに、さらなるFELの産業応用を目指し装置の改良をおこない、幅広いユーザーに赤外FEL装置を提供すると共に、赤外FELをベースとした新産業創出に貢献していきます。

□FIR-FEL装置の性能    
電子ビームのエネルギー : 10 MeV
波 長 範 囲 : 300~1,000μm