欧州合同原子核研究機構向けエンドキャップヨークを納入

2001年11月05日

川崎重工は、米国ウィスコンシン大学より受注した欧州合同原子核研究機構(以下 CERN)向けの特殊磁場素粒子検出器(以下CMS)に取り付けられるエンドキャップヨーク(特殊磁場シールド)をCERN本部(スイス ジュネーブ市)に納入しました。

CERNは14兆電子ボルトの衝突エネルギーを発生させる、1周27km(JR山手線1周の約80%相当)におよぶ大型陽子・陽子衝突型加速器(以下LHC:Large Hadron Collider)を、スイスとフランスの国境付近に2005年運転開始を目指し、現在建設中です。本施設は物理学の基礎研究施設で、陽子と陽子を高エネルギー状態で衝突させることにより、宇宙の起源とされるビッグバンを再現するとともに、物質に質量を与えるといわれる未知の素粒子であるヒッグス粒子(※1)を発見することを目的としています。

今回納入したエンドキャップヨークは、板厚60cm、直径14mの鋼製ディスク4枚と、板厚23cm、直径14mの鋼製ディスク2枚で構成される総重量約4,000tの構造体で、各ディスクは扇形に20分割されたブロックを「スーパーボルト」と呼ばれる特殊ボルトで機械的に結合し一体化しています。この構造体は、それぞれのディスク内に設置されるミューオン検出器(※2)を支持し、さらに強い磁場の中での使用でも、磁場の流れを乱さないなどの役割を担っており、材料には成分調整した特殊炭素鋼が使用されています。

当社は、本年3月にCMSのエンドキャップヨーク製作に関し、特に優れた技術力、プロジェクト管理能力を発揮しCERNに貢献したことで、CERNからCrystal Award 2001を受賞しました。これは、製作途上での研究ニーズに基づく設計要求にきめ細かく対応し、厳しい要求精度を満たす製品を完成させたことが高く評価されたもので、当社播磨工場はCrystal Awardを、本件のプロジェクトチーム全体に対しては、Gold Awardが授与されました。

なお、当社はCERN向け実績として、エンドキャップヨークの納入の他にATLAS(トロイド型先端素粒子検出器)に据付けられるバレルクライオスタット(アルミ製高精密真空低温容器)を米国ブルックヘブン国立研究所より受注し、本年7月に納入しています。また、これまでにKEK(文部科学省高エネルギー加速器研究機構)トリスタン検出器用機器などの各種検出器用機器の納入実績を持つととともに、加速器全体システム分野においては、当社独自の取組も行ない、自由電子レーザーの開発では昨年世界初となる赤外自由電子レーザーの発振に成功しました。

当社は今後も、物理・科学をはじめとする医療、機械、材料などさまざまな分野に活用できる加速器技術での社会的貢献を行うとともに、加速器分野でのこれまでの数多くの納入実績、経験を活かし、国内外の積極的な営業活動を展開していきます。

(※1)ヒッグス粒子: 素粒子物理学の理論ではビッグバン直後にはどの素粒子も均一で、質量がゼロのまま飛び交っていたが、超高温の世界が冷えるにつれて空間がヒッグス粒子に満たされ素粒子が動きにくくなったとされ、この動きにくさが質量であるとされている。
(※2)ミューオン検出器: 素粒子の中でも電子やニュートリノ等の軽い粒子(レプトン)の1つであるミューオンの検出および運動量の測定を行うもので、他の検出器による測定結果と合わせてヒッグス粒子の存在を探索する。