Interview

「汽車製造」の時代から50年以上、
稼働し続けたボイラ

銘板に「昭和35年製造」と書かれたボイラが、デンカ株式会社青海工場(新潟県糸魚川市)にある。
川重冷熱工業の前身「汽車製造」が製造した水管ボイラだ。
驚くのは、このボイラは決して過去の遺産ではなく、つい2年前まで現役で稼働していたことだ。
まさに50年以上にわたり、デンカの事業の変化に応え、成長を支えてきたのだ。

中道 優多郎
倉又 正芳

自社保有の石灰石鉱山、自家発電設備でカーバイドシェア90%

 デンカは、無機・有機化学品から電気材料、医薬に至るまで、幅広い分野でグローバルに事業を展開する総合化学メーカーだ。その歴史は長く、「当社は1915(大正4年に『電気化学工業』として創立され、2015年に100周年を迎えました。カーバイド(炭化カルシウム)から石灰窒素肥料を製造することが原点でしたが、その事業は、今もこの地で受け継がれています」と、デンカ株式会社 青海工場 電力部 動力課 火力係の中道優多郎氏は話す。

 大きな特長は、同社が自前の石灰石鉱山を有していることだろう。糸魚川市の黒姫山は総量約50億トンの石灰石の塊で、現在のペースで採掘すると、これから1000年以上も石灰石を取り続けることができるという。

 火力係長の倉又正芳氏は、「安定的に原料が調達できることに加え、カーバイド製造に欠かせない電力を確保できるのも当工場の大きな特長です」と話す。

 近隣には、長野県から糸魚川市へ流れる姫川をはじめ、水量の豊富な河川がいくつもある。同社はそこに流れ込み式水力発電所を15カ所(北陸電力との合弁会社・黒部川電力の5カ所を含む)保有している。さらに工場内の火力発電所、セメント製造工程の廃熱を利用した発電所などにより、計18万6000KWを自家発電している。これらの恵まれた条件により、同社の国内におけるカーバイド生産のシェアは90%以上にも達している。

 中道氏は「当社で『カーバイドチェーン』と呼んでいますが、青海工場ではカーバイド化学を軸に多彩な製品を製造しています。中でもクロロプレンゴムは当社の主力製品の一つです」と話す。

 カーバイドに水を反応させるとアセチレンガスが発生する。デンカでは、このアセチレンガスを原料としてクロロプレンゴムを製造している。クロロプレンゴムは、合成ゴムの一種で、耐熱性や耐油性に優れ、自動車部品や建設資材など幅広い用途で使われる。

有機化学品事業の成長を支えた「汽車製造」のボイラ

 現在、デンカはクロロプレンゴムの製造で世界トップシェアを誇る。

 中道氏は「当社がクロロプレンゴムなど有機系の事業に力を入れ始めたのが1960年代です。そこで鍵になったのが蒸気、すなわちボイラでした」と話す。

 中道氏によれば、有機化学品を製造するためには、原料と溶剤を混ぜ合わせて反応させ、その後に蒸気などで熱を加えて精製、分離、回収などを行う工程が不可欠だという。

 倉又氏は次のように紹介する。「昭和34(1959年)~35年(1960年)にかけて、青海工場の青海地区、田海地区にそれぞれ、汽車製造の蒸発量30トン/時の水管ボイラを2台ずつ設置しました」

 各地区での蒸発量は60トン/時。大型のボイラと言えるだろう。ただし、時は高度成長期。有機化学品の需要はひっ迫し、製造の現場ではフル稼働のような状態で、大容量の4台のボイラでも蒸気が足らなくなってきた。

「蒸気の需要が高まる中で、蒸気タービンによる火力発電により電力と蒸気の供給をより効果的に行おうと考えました」(倉又氏)。

 青海地区では昭和37(1962)年、田海地区では同42(1967)年に火力発電所が完成した。しかし、そこで汽車製造のボイラがお役御免になったわけではない。

「火力発電所は1年に1カ月程度は止めて点検しなければなりません。その間もプラントは止まることなく生産を続けるために蒸気供給が必要です。そこでバックアップ用として、火力発電所完成後も汽車製造のボイラをずっと使ってきました」(倉又氏)。

 火力発電所完成後も、田海地区では2010年まで、青海地区では実に2017年まで稼働していたという。いずれも50年以上にわたり使われてきたわけだ。

「カーバイド製造工程で発生する副生ガスを燃料として利用することもありました。バーナーの切り替えなどが柔軟にでき、使い勝手のよいボイラでした」と倉又氏は振り返る。

次世代を見越した新火力発電所に川重冷熱の大型貫流ボイラが採用される

 引退からわずか2年。川重冷熱のボイラが再びデンカの青海工場で活躍する日が近づいているという。

 中道氏は次のように話す。「当社では、工場で必要なユーティリティの最適化を進めており、ガスタービンと川重冷熱の大型貫流ボイラを複数台導入することで、システム全体の高効率化を図るよう計画しています。最近はさまざまなメーカーから貫流ボイラが提供されていますが、その中では川重冷熱のボイラがもっとも使い勝手がよく、何よりメンテナンスなどのサポートがしっかりしていると感じました」

 貫流ボイラに最長15年もの製品保証を設けているのも、川重冷熱の自信の表れだろう。

 倉又氏は、「当社では2018年~2022年度の成長ビジョンとして『Denka Value-Up』を掲げています。3つの成長ビジョンの一つが『革新的プロセスによる飛躍的な生産性向上で、持続的成長を目指す』です。当社の沿革にもつながる主力工場の一つとして、引き続き生産性の向上につながる質の高いユーティリティ供給を追求していきます」と力を込める。

 川重冷熱のボイラがその実現の大きな支援になりそうだ。