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Apr. 2016

北の大地へ北海道新幹線と川崎重工

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2016年3月26日、北海道新幹線が開業した。新幹線がいよいよ北の大地に乗り入れ、
1964年の東海道新幹線開業から半世紀を経て、北海道から鹿児島までの2,150kmがつながった。
疾走する新幹線は、JR北海道仕様のH5系。その第1編成を納入したのが川崎重工である。

  • 竹廣 伸佳 担当課長
    車両カンパニー 技術本部
    設計部 第一設計課
  • 田原 亮
    車両カンパニー 東部営業部
    (北海道地区担当)
  • 前田 力 課長
    川重車両コンポ株式会社
    運輸部 輸送課

北海道のイメージを車両に
「H5系」

開業時の北海道新幹線は、東北新幹線の新青森駅(青森市)と新函館北斗駅(北海道北斗市)間の約149㎞をつなぐ。最高速度は北陸新幹線や九州新幹線と同じ時速260㎞。東京~新函館北斗間は最速4時間2分で結ばれる。
北海道新幹線は、新青森からの延伸となり、奥津軽いまべつ駅(青森県今別町)と木古内駅(北海道木古内町)、そして新函館北斗駅の3駅が新設された。列車は東北新幹線の「はやぶさ」が東京・仙台~新函館北斗、「はやて」が盛岡・新青森~新函館北斗をつなぐ。
北海道新幹線用に新たに投入された車両がJR北海道の「H5系」だ。JR東日本の東北新幹線向け車両「E5系」をベースに、北の大地の厳しい天候に対応できるように改良が加えられている。その上で、車両のデザインは、北海道への旅の序章として、その先の旅への期待を広げていきたいという想いを込めて「Prologue of the North Experience」をキーワードにE5系の内外装を変更した。

外観では、東北新幹線のE5系と同じ「常磐グリーン」が採用されているが、中央の帯にはライラック、ルピナス、ラベンダーを想起させる「彩香パープル」のラインを配置。さらに北海道の雄大さと、北海道へも飛来するシロハヤブサをモチーフにして北の大地と本州が新幹線で結ばれることによる「速達性と利便性」「地域間交流の拡がり」を表現したシンボルマークが、1・3・5・7・10号車の両側面にあしらわれている。
北海道新幹線は、すでに札幌への延伸工事が進んでおり、新函館北斗~札幌間の約212㎞は2030年度末の開業を予定している。札幌までの延伸が竣工すれば、北の大地の中心都市から九州・南端の鹿児島までの〝列島縦断新幹線網〟が整備されることになる。

結露と凍結。
厳しい気候への対応する技術

3月26日の開業式当日、北海道新幹線開通への期待を胸に、多くの人で賑わっていた。JR北海道向けH5系車両の車体設計をリードし、第1編成車両を納入したのは川崎重工だった。今後、札幌延伸に対応するためにさらなる寒冷地対策などのさまざまな課題が待ち受ける。
「北海道新幹線開業は、川崎重工の車両技術の一つの到達点であると同時に、新たな技術革新の挑戦への始まりです」。川崎重工の関係者は皆、口をそろえて語る。

H5系新幹線の開発にあたり川崎重工が担当した車体設計の取りまとめ役を務めた竹廣伸佳担当課長は、「E5系がベースになっているとはいえ、北海道新幹線ならではの厳しい気候への対応が必要でした。雪への対応だけでなく、凍るという課題にいかに対応するかでした」と語る。
東北新幹線向けの高速車両として開発されたE5系には、すでにいくつかの寒冷地対策が施されている。例えばモータなどの電気系統がある車両下部は、雪が付着したり高速走行時に風を巻き込まないようにするためにカバー(下部ふさぎ)で覆われている。また線路上に積もった雪をはね飛ばすために先頭車両には雪かき(スノープラウ)も装備している。

H5系への寒冷地対策

水回り凍結対策
トイレ用などの水回りで配管に残った水が凍結しないように、圧縮空気で管に残っている水を吐き出す仕組みも取り入れた
断熱材の強化
結露を防ぐために、金属が露出している部分を中心に断熱材を貼り、保温性を高めている
雪をはね飛ばす
車両の先頭部分には線路に積もった雪をはね飛ばす雪かき(スノープラウ)を装備。30cm未満の積雪であれば通常走行できる
下部ふさぎ
モーターなどの電気設備や台車がある車体下部にカバー(下部ふさぎ)を施して雪や風を巻き込まないようにしている

その上でH5系では、「結露、雪、凍結対策の3つが具体的な改善課題になりました」(竹廣担当課長)。
今回の開業区間約149㎞のうち青函トンネル部分が約54㎞を占める。トンネル内は四季を通じて気温20℃、湿度80~90%の均一の環境が保たれている。一方、青森や函館が最も寒くなる時期の平均気温はマイナス1~2℃で、冷えた列車が突然温度も湿度も高いトンネルに入ると一挙に結露が発生する。そして再び低い気温の地上に出れば結露が凍り、部品類を傷めてしまう。高速で走行する新幹線では、小さな雪塊や氷でも強烈な力で車体を襲う。「特に金属が露出している部分では結露が発生しやすいため、断熱材をきめ細かく貼り合わせ、すき間ができないような対策が取られています」(竹廣担当課長)。

雪への対応では、積雪時の高速走行でのブレーキ性能が設計通りに発揮されるかの検証が繰り返された。
より慎重に対策が練られたのが各種の設備類の凍結対策だ。例えばトイレで使われる排水。運転が終わり、夜間に車両基地に留置されている間に、水回りの管に残った水が凍り管を破裂させてしまうことがある。そこで水回りの配管にドレーン(排水口)を設けたり、圧縮空気で管に残っている水を吐き出すなどの技術が取り入れられた。
「新幹線の主電源を落としても水回りの残り水を吐き出せるような工夫も施してあり、目には見えない地味な部分ですが安全で安心な定期運行を実現する基礎になっています」(竹廣担当課長)。

H5系北海道新幹線ができるまで

01-構体制作・組立

車両の構体を造る。長尺の型材を溶接して側構体を造る一方、「台枠」と呼ばれる車両の土台部分が造られる、両者は溶接で結合されて箱形の車体ができる。

02-塗装

車体は金属製なので、腐食を防ぐため錆止め塗装を施すが、その段階では朱色。その上でカラーリング塗装がなされる。

03-艤装

室内や床下に配管、電気配線、部品などを取り付ける。作業者は、不自由な姿勢でも慎重かつ正確な作業を進めていく。

04-台車入れ作業

車体とは別に造られていた台車と車体を結合する作業。具体的には車体を持ち上げ、その下に台車を移動させ、車体を降ろして組み込む。

05-完成検査

座席なども設置され、初期の設計通りに設備や機器の機能が発揮されているかなどを検査する。

06-機能試験・構内走行

兵庫工場内にあるテストコースで、新幹線を実際に走らせて車両の走行や機器の動作について最終的なチェックを行う。これを経ていよいよ工場搬出・出荷である。

大プロジェクトを
現地でサポート

一方、北海道札幌市でH5系導入というJR北海道の大プロジェクトに営業担当者として寄り添ってきたのが田原 亮だ。
『こんなことはできないだろうか』『こういう改良は可能だろうか』など、さまざまな疑問やご要望を当社の設計部門に伝え、スムーズな開発を側面から支援しておりました」。
プロジェクト担当者らが最も緊張するのが、車両の製造過程における「中間検査」「最終立会検査」などである。
「例えば、部品を加工したときの小さな切り粉でも残してしまうと、将来の故障原因になりかねませんので徹底した検査が 行われます。それは列車にお乗りいただくお客さまの安全と安心に直結するからなのです」。
さまざまな改善要望を最終の立会検査までに改良して納品しなければならない。また搬入・納品後も、メンテナンスなどを通じて深い関係が続く。田原は今、「川崎重工には、未知の領域の課題を解決してくれる力があるとご評価をいただいています。実際、さまざまな技術的な検証も当社に依頼され、それに誠実に応えてくれた当社の技術陣には感謝しています」と胸をなで下ろしている。

猛烈な台風の襲来に
輸送で大きな決断

北海道新幹線の開業時に走る4編成の車両のうち、第1編成となる10両が川崎重工兵庫工場から船積みされて函館に向かったのは2014年10月のことだった。車両輸送を担う前田力課長は、「1両で数十トンの重さがある完成車両の輸送では細心の対応が求められ、まさに擦り傷一つもつけてはなりません」と言う。ところがH5系第1編成では「思わぬハプニングが起きました」と語る。
10月13日に函館港で「陸揚げ・歓迎セレモニー」が予定されていた。自治体関係者だけでなく地元の幼稚園児200人 も招待されていた。兵庫工場から函館港まで海上輸送で3日かかるため8日から兵庫工場では、はしけへの積み込み作業が始まったが、このとき、「猛烈な台風19号」が南西諸島に迫っていた。
予想進路図ではまさに九州から兵庫を経て、太平洋岸に沿って日本を縦断する。「車両は神戸港で輸送船に積み替えられましたが、潮岬を経由して太平洋岸を北上する航路では台風に追撃される可能性がありました。そこで急きょ、瀬戸内海から山口県の関門海峡を抜け、日本海を北上するルートに変更したのですが、13日のセレモニーに間に合うのか内心では冷や冷やでした」(前田課長)。

台風の影響を受けながらも2014年10月13日に函館港に到着した北海道新幹線H5系第1編成。写真はその陸揚げ作業。

結局、車両は歓迎式典の7時間前に函館港に到着した。台風の影響で風が強まり、そうしたなかで台車を付けていなくても約31tある先頭車両を無事に陸揚げできたとき、前田課長は、「腰が抜けるぐらいにホッとしました」と笑う。
函館港に陸揚げされた車両は、七飯町にある「函館総合車両基地」に陸送され、14年12月1日から走行試験が始まった。以来、安全と安心を運ぶための走行試験は休むことなく繰り返され、16年3月26日の開業を迎えた。
北の大地の新たな発展を担う北海道新幹線。川崎重工は、それを車両技術で支えている。

Future Vision

北海道新幹線開業による
北海道内への経済波及効果

日本政策投資銀行北海道支店の試算によると、北海道新幹線開業に伴う北海道内への経済波及効果は年間約136億円と推計される。新幹線開業により、関東や東北などの他地域からの入り込み客数の増加予測を基に試算した。増えた入り込み客が直接消費することによる経済効果(直接効果)が観光で約68億円、ビジネスで約5億円。直接効果に伴い道内生産が誘発される効果(1次間接波及効果)や雇用者所得の増加などにより誘発される効果(2次間接波及効果)などが加味されている。

新函館北斗駅開業の経済波及効果

※(株)日本政策投資銀行北海道支店による

Leader’s Voice

By 寺井 淳一 Junichi Terai

川崎重工業株式会社 准執行役員
車両カンパニー技術本部長

お客さまと共に創る。
それが世界の鉄道会社からも評価されています。

欧米では鉄道車両メーカーが製品として車両をつくり、それを鉄道会社が購入するパターンがほとんどですが、日本では鉄道会社と車両メーカーが綿密に技術検証や仕様の詰めを重ね、いわば「お客さまとの共同創造品」として車両製造が続けられています。納入車両にトラブルがあると「日本のメーカーからは真っ先にエンジニアが飛んでくるが、欧米のメーカーからは弁護士が飛んでくる」というジョークがあるほど、日本の車両製造はお客さま本位で進められています。
今回の北海道新幹線H5系の開発でも、川崎重工はJR北海道様と共に将来の札幌への延伸や、そこで新たに浮かび上がるであろう課題なども含めて車両開発を進めてきました。
川崎重工の鉄道車両事業は、アメリカではニューヨークやワシントン、ボストンなどの主要交通局から多くの鉄道車両を受注しています。またアジアでは台湾やシンガポールでも大型受注を得ています。これらの実績は、日本の車両づくりを通じて鍛えられた共同開発の姿勢が、海外でも着実に評価されてのものでした。

現在、鉄道車両、特に高速車両は、新しい技術レベルに入ろうとしています。すでに時速320㎞で運行されている車両もあり、さらなる高速運行を実現するには車両の先端形状や車体形状、モータやブレーキなどの開発に最先端の知見が必要です。そのためには、川崎重工の頭脳集団である本社組織の技術開発本部と連携しながら、航空機開発で培った空力解析技術などの社内の技術シナジーを生かして、総合重工のなかの鉄道車両メーカーとしての強みを発揮していきます。さらには、神戸市にある「スーパーコンピュータ京」を地元の利を生かして活用するなど、他の鉄道車両メーカーとの差別化を図っていく考えです。

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