Oct. 2019

雪に克つ「NICHIJO」のロータリ除雪車

世界に例を見ない雪国・日本では、豪雪地帯の暮らしを守るため、
さまざまな除雪技術が生み出されてきた。
その革新を牽引し続けてきたのが、国内約7割のシェアを誇る
トップメーカー「NICHIJO」である。

  • 太田 正樹
    株式会社NICHIJO
    執行役員 技術総括部長
  • 岡田 真
    株式会社NICHIJO
    取締役 管理総括部長

200万都市・札幌で積雪6m。
国土の51%が豪雪地帯。

日本は世界に例を見ない雪国である。「豪雪地帯対策特別措置法」では雪によって産業が発展しにくく、住民の生活にも支障をきたす地域を「豪雪地帯」と定めているが、実に国土の51%、約2千万の人々が住む地域が「豪雪地帯」に指定されている。
世界の豪雪地帯に比べると、人口の密集も特徴的だ。人口が100万人を超える大都市で、世界一の年間積雪量を誇るのが札幌市の約6m。モントリオール(カナダ)の2mを大きく引き離している。

この過酷な自然が、ある技術を徹底的に鍛え、進化させてきた。除雪だ。除雪は、生活の場を守り、生命線である道を確保する。除雪でどれだけホッとするかは、雪国に暮らしたことがある人ならば誰もがわかる。除雪作業には高い使命があり、それだけに高い安定性と信頼性も求められる。

除雪作業は通常、ヘラのようなグレーダーで雪を道路脇に寄せる「1次除雪」と、その雪をロータリ除雪車で投雪する「2次除雪」からなる。ロータリ除雪車は運転手とオペレーターの2人1組で運用されるが、「ロータリ除雪車を操作している」だけで一目置かれるほど熟練の技がいる。オペレーターは7〜8本のレバーで除雪装置の角度や雪を投げ出す方角などを操作する一方、運転手は雪の固さや深さに応じてエンジン出力や運転速度を調整する。まさに“あ・うん„の呼吸での作業だ。

ロータリ除雪車で国内で約7割のシェアを握るのが、川崎重工グループの「NICHIJO」である。旧社名を日本除雪機製作所といい、会社設立から約60年間、日本の雪と格闘してきた。歩道用の小型機から狭い道用の中型機、空港滑走路や高速道路用の大型機まで、日本のロータリ除雪車の歴史を刻み続けている。
除雪の現場は今、高齢化にともなう人手不足が深刻化している。NICHIJOはリーディングメーカーとして、こうした新たな社会課題に応える省力化などの技術開発に挑んでいる。

厳しい要求基準に応える
内製型の完成車メーカー

NICHIJOがロータリ除雪車の分野に参入したのは、北海道西部の豪雪地帯を走る鉱山専用鉄道会社の求めに応じてだった。前面にあるスクリューが回転し、雪を砕き集める部分を「オーガ」というが、開発で参考にしたスイス社のものは特許の関係で使えず、この段階で既に性能の劣らない独自形状のオーガ開発にこぎ着けている。

国産初のロータリ除雪機関車は1959年に完成するが、これに注目したのが北海道開発局だ。大きな車で除雪する、つまりロータリ除雪車の開発が打診された。この時、型式と決められたのが「Hydraulic Torque Converter Rotary=HTR」で、以来、NICHIJOのロータリ除雪車にはすべて「HTR」の型番が付いている。

最新鋭の高速自動車道・多雪地帯主要道路用主力機が「HTR408」だ。全長約9m、全幅2.6m、全高約3.5mあり、480馬力のエンジンを積む。除雪装置は2.6mの除雪幅、1.75mの除雪高を持ち、「シュート」と呼ばれる吹き飛ばし口から雪を20m、30m、45mと投げ分ける。1時間当たりの最大除雪量は4,200tで、つまり10tトラック420台分の雪を1時間で、表現を換えれば10tトラック1台を約9秒で満載にする処理能力がある。

2015年3月に移転したNICHIJO本社(札幌市手稲区)。
「安全と安心を守る」という厳しい要求基準に応えるため、部品も内製する。雪を集束するオーガの枠部分(1)とスクリュー(2)を組み立てていく(3)。

さらに、安定作業のための工夫も随所に盛り込まれている。例えばオーガ部分には、ちぎれて道路に放置されたタイヤチェーンの噛み込みを防止する装置が付けられている。また車体部分と除雪装置部分をつなぐセンターピンが屈折することで、狭い交差点でも除雪車の向きを簡単に変えられる技術も組み込まれている。

2019年9月中旬、札幌市手稲区にあるNICHIJOの稲穂、曙の両工場では、シーズンを前に除雪車製造が佳境を迎えていた。太田正樹・技術総括部長は、「日本は大都市の積雪が多く、道路幅は狭い所が多く、かつ除雪は美しくなければならないという独特の美学があり、独自の技術開発が求められてきました。それが海外のメーカーが参入できない高い壁にもなっています」と説明する。

「除雪の美学」とは驚きだが、オーガの雪の集束性の良し悪しや、投雪距離を臨機応変に変えられるシュートの操作性などが除雪の美しさを決める。オーガのスクリューは、半世紀以上に渡る研究の結果、軽い雪でも重い雪でも対応できる万能型の形状に辿り着いているという。

「安全と安心を守る」という厳しい要求基準に応えるため、部品も内製する。雪を集束するオーガの枠部分(1)とスクリュー(2)を組み立てていく(3)。

高い要求性能を実現するためにNICHIJOでは、エンジンやタイヤなどの一部を除き、部品を内製して組み立てている。つまり、完成車メーカーなのだ。オーガのスクリュー製造部門では、厚板を特殊な装置でスクリュー型に加工し、溶接する。車両のシャーシ部分も自前で組むし、運転席のマットまで内製している。

鈴木隆好社長は、「除雪作業を担う自治体や高速会社などは絶対的なまでの使命を担っており、それに必要な技術要求に応えるには、お客様と一緒になった開発と技術集積が求められ、内製はそのために必要な体制でした」と語る。

運転席のマットを内製する工程も持つ(上)。シャーシも内製だ(下)。
最終の組み立て工程に入ったロータリ除雪車。エンジン部分(後部)の迫力と、除雪車として力強さが伝わってくる。

人手不足に対応する
自動制御技術の開発

雪はいつ降るかわからない。しかし、ひとたび出動となれば、遅滞は許されないのが除雪作業だ。NICHIJOはトップメーカーの責任として、全国に80社の代理店からなる24時間体制のアフターサービス網を構築している。本社からの部品供給にはお正月休みもない。そのうえで今、納入先の喫緊の共通課題になっているのが、オペレーターの高齢化と人材不足だ。
除雪車の操作は、運転手と助手による熟練の技だ。しかし、その熟練の技を受け継ぐ人が減っている。それは即ち、除雪という住民の安全に直結する作業が遅滞、停滞することを意味する。

太田総括部長によれば、これまでにも多くの「除雪作業を支援する仕組み」を開発してきた。例えば、除雪装置の操作をジョイステックに改めた。7〜8本のレバーを操作するよりも、より直感的に操作できるからだ。また雪の深さや硬さによって除雪車への負荷が変わる時に、除雪車が自動で運転スピードを落とす仕組みや、トラブルが発生した箇所や内容を自動的に表示する監視・管理機能なども開発した。

しかし、それでもなお「少子高齢化等による人手不足への本質的な対応としては、自動運転技術の確立が急務」と太田総括部長は言う。実は、既に北海道開発局の構想に基づいた試験機を納入済みで、準天頂衛星「みちびき」のGPSデータを活用し、自動投雪位置コントロールを実現する。19年春には、知床峠で除雪装置の一部を使用した自動投雪の公開実験が行われて実用できることを証明。20年には、除雪装置全ての機能をコントロールして自車位置に対し、予め決められたピンポイントへ投雪する試験に入る。

「ロータリ除雪車をワンマンで運用できるようになれば、人手不足への貢献も大きい。しかし機械技術だけではなく、ソフトもすべて自製する制御技術の確立の壁は高く、さらに設計部門の拡充を進めなければなりません」(太田総括部長)

顧客のニーズに応える製品造りを目指して
〜進化するNICHIJOの技術開発〜

車両状態モニタシステム(タッチパネル搭載)

オペレーターの快適さと省力化を実現するための技術開発では、室内のモニタ装置で各種の情報を管理・記録
し、リアルタイムで確認できるようにした。故障時の応急復旧の迅速化でも力を発揮する。

ジョイスティック

従来は7〜8本もあった除雪装置の操作レバーをスティックに。
より直感的で、反応の早い操作性能を提供する。(中大型機に搭載)

納入先と詰める技術の高度化

岡田真・管理総括部長は、「ロータリ除雪車は、お客様によってオプション仕様が多彩なのも特徴で、そのために営業担当者はお客様との面談や協議を重ね、ニーズを丹念に汲み取った製品提供に力を注いでいます」と語る。

その上でロータリ除雪車は、除雪装置部分を別の装置に換えることで稼働効率を向上させるケースもある。夏季には道路脇の草を刈る装置として活用したり、ポンプを接続して水害時の水の汲み出しなどに活用する。「ロータリ除雪車がエネルギー源として多様な用途を持ち、応用展開力が高いことの証」(岡田総括部長)だ。

小型除雪車はアタッチメントとして、草刈装置(上)や集中豪雨等による水害時に排水作業を行う災害対策用排水ポンプ装置(下)が取り付け可能。季節を問わず通年有効活用できるので経済的だ。
小型除雪車はアタッチメントとして、草刈装置(上)や集中豪雨等による水害時に排水作業を行う災害対策用排水ポンプ装置(下)が取り付け可能。季節を問わず通年有効活用できるので経済的だ。

実はNICHIJOは、11年に業界初となるハイブリッドロータリ除雪車を開発したが、電池コストがかさばり売れ行きは思わしくなかった。しかし18年秋の北海道胆振東部地震では、道内全域が停電する“ブラックアウト„が発生。もし地震の発生が真冬の厳寒期であったならば、生命の危機にさらされていただろう。

「公共サービスの使命の高さから考えれば、ハイブリッド除雪車はディーゼル燃料をもとにした発電機能を持っており、大出力の非常用供給電源としての有効性も高い。しかし、まずは除雪車として使ってもらえるようなビジネスモデルを創らなければなりません。当社は今後、自動運転・自動制御への対応、AI・IOTを活用した保守コスト低減も取り組んでいき、高い技術力をベースとした優れた製品を提供することで地域社会の生活環境の向上に貢献していく」(岡田総括部長)。

雪に負けず、雪と共にある暮らしを安全・安心にする。雪に克つためにNICHIJOは、技術開発とともに自らのビジネスの変革にも挑もうとしている。

For the Tomorrow

北の大地で培った優れたノウハウを
多様な製品開発に活かし、
「NICHIJO」ブランドの拡大化へ

NICHIJOは、除雪車事業の持続性を確保するためにも、事業の多角化による裾野の拡大を目指している。その注力分野のひとつが特殊車両で、重量物を運搬する「キャリアパレット」や、製鉄所で鉱石を運搬する専用車両や専用ダンプトラックなどを手がけている。これらの車両には、ロータリ除雪車で培った完成車メーカーとしての技術が広く生かされ、かつ客先の高い要求基準をクリアする力がある。自動制御技術などのメカトロニクス分野の拡充も、特殊車両分野に大いに生かされていくだろう。

重量物運搬車 NC220HF-S

Leader’s Voice

By 鈴木 隆好 Takayoshi Suzuki

株式会社NICHIJO
代表取締役 社長

雪国のライフラインを守り、
更なる地域社会への貢献を目指します。

除雪では、グレーダーとブルドーザーしかなかった時代に、NICHIJOの先達たちはロータリ除雪機関車の開発に挑み、その成果をトラックシャーシに乗せることでロータリ除雪車を実現しました。その開発力に対するお客様の信頼は厚く、お客様とともに開発を進め、雪国の人たちの暮らしを守ってきました。
公共事業予算の削減や厳しい環境規制への対応など、事業環境が厳しい時期もありましたが、それでもなおお客様から信頼を得ることができ、現在は国内シェアの7割に当たる年間約200台のロータリ除雪車を製造・出荷しています。

ロータリ除雪車の市場は当社と、もう1社のみになりました。シェアの向上は競争優位そのものですが、除雪車という公共性と使命の高い製品であるため、私たちの社会的な責任も増します。更新需要への対応をはじめ、除雪作業の現場が抱えている課題、例えば人手不足や高齢化などに対応する新たな技術の開発などに注力し続けなければなりません。

そのためにも、除雪車技術の応用展開によるビジネスの拡充が、経営トップとしての私の責任です。既にNICHIJOはロータリ除雪車の豊富なラインナップに加え、除雪機関車、凍結防止剤散布車、キャリアパレットに象徴される輸送機器(特殊車両)などの製品を備えています。より強いビジネスモデルを確立することで除雪車事業をより安定的にし、それによって“雪に克つ”貢献を完遂できる体制を整えていきます。
「地元の技術で、地元に貢献できる、地元の会社」と、入社を希望する若い人たちが増えていることに嬉しさと責任を感じています。

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川崎重工グループの和文PR誌として、多彩な製品群が陸・海・空に亘る各分野で活躍する姿と、新製品・新技術の一端をご紹介しています。

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