Oct. 2018

核心はギアにある
〜川崎重工の航空機用ギア事業〜

川崎重工で今、飛躍の時を迎えようとしている事業がある。航空機用ギア事業だ。
ヘリコプター用トランスミッションの他に、アクセサリー・ギア・ボックス、
航空機用発電システムなどの製品群を擁し、この分野でのエクセレントメーカーへの道を歩んでいる。
「川崎重工なくして事業継続は困難である」とさえ言われる核心の技術を紹介する。

  • 郷橋 昌宏主事
    航空宇宙システムカンパニー
    生産本部 エンジン生産技術部
    エンジン生産技術一課
  • 小笠原 健太主事
    航空宇宙システムカンパニー
    民間エンジンプロジェクト本部
    駆動システム技術部 駆動システム技術一課
  • 佐藤 桂匡主事補
    航空宇宙システムカンパニー
    民間エンジンプロジェクト本部
    駆動システム技術部 駆動システム技術一課

ギア製品群が誇る
競合を圧する信頼性

川崎重工航空宇宙システムカンパニーの航空機用ギア事業は、ヘリコプター用トランスミッション開発から始まり、油圧や電気、空調のための機器(補機)を駆動させるアクセサリー・ギア・ボックス(AGB)へと枝葉を広げ、さらに独自の新技術である航空機用発電システム「T-IDG®」を創造した。航空機用ギアで、川崎重工ほど豊富な製品群を持つメーカーはない。
航空機用エンジンメーカーは個別にギアメーカーとの連衡を進めているが、川崎重工はP&W(プラット・アンド・ホイットニー)社と組み、先進エンジン開発にも貢献している。

中軸事業となったヘリコプター用トランスミッション開発は、1960年代の自社開発機計画を手始めとする。77年から始まったメッサーシュミット・ベルコウ・ブローム社(現エアバス社)との「BK117」の共同開発では、最重要部位であるトランスミッションを担当。その信頼性と耐久性の高さを証明して同機を傑作機とする一方、事業の礎とすることに成功した。

トランスミッションのユニットと内部構造。BK117 D-2型はエンジンが2基なので入力軸は2つある。ユニット内には、補機の動力とするための各種のギアも配置される。ヘリコプター用トランスミッションは、キャビンの上部に設置され、水平に置かれたエンジンと縦型のローターをつなぐ役割を担っている。

ヘリコプター用トランスミッションは、キャビンの上部に据えられ、①エンジンの出力をメインローター(翼)とテールローターに減速して伝え、②補機を駆動し、③メインローターで発生する揚力を機体に伝え、推力とそれに反する抗力を受け止める、などの役割を担っている。
BK117 D-2型機で見れば、1分間に6000回転するエンジンの回転を、380回転まで減らす(減速比は約16)とともに、トルクを1万9600N・mにまで増幅させてメインローターを回す。これは長さ1mの棒の先に乗用車2台がぶら下がるほどの巨大な回転力だ。

具体的には、2基のエンジンの動力1000馬力は、トランスミッションのスパイラル・ベベル・ギア(まがりばかさ歯車)で回転軸の向きを垂直に変えると同時に回転数が減らされ、続く2段目のヘリカルギア(はすば歯車)で合成されて減速される。トランスミッションの中には、さらにコンパクト性を求めるためにプラネタリギア(遊星歯車)を使うものもあり、パワー・ウエイト・レシオ(1馬力当たりの重量)は自動車などのトランスミッションの半分以下になる。

トランスミッションのユニットと内部構造。BK117 D-2型はエンジンが2基なので入力軸は2つある。ユニット内には、補機の動力とするための各種のギアも配置される。ヘリコプター用トランスミッションは、キャビンの上部に設置され、水平に置かれたエンジンと縦型のローターをつなぐ役割を担っている。

素材加工から最終検査まで
一貫したノウハウを持つ
世界最強のメーカー

軽量化のためにギアは薄さと耐久性の両立が極限まで追求される。ギアの厚さは薄いものでは2㎜ほどで、この薄さで巨大な力を伝達する。ギアの内側には軽量化のために穴が開けられたりもするので必然的に歪みが出やすい。それでギアの歯の形は1000分の1㎜(1µm)単位の精度に収めなければならない。
生産技術部門の郷橋昌宏主事は、「ギアの形状によって加工時の歪み方が異なり、また加工工程毎でも歪み方が変わります。この歪みをいかに抑え、元に戻し、設計者が理想とした複雑で微妙な形の歯形を実現するかがギア製造の重要なポイントになります」と解説する。

ギアの製作工程。素材からギアを削り出し(1)、歯の表面を浸炭焼入れで硬化(2)、研削でさらに1μm単位に仕上げ加工(3)、最後は専用機で加工精度を検査する(4)

ギア製造はまず、専用の工作機械を使い、丸い素材に創り出したい歯形と同じ形の刃を当てて削り出す。次に歯の表面を硬くするために表面に炭素を浸透させる「浸炭焼き入れ」を行い、最後に1µm単位の精度で歯の形を研削して仕上げる(ここで用いる専用工作機械の使いこなし方も重要なノウハウだ)。さらに耐久性を上げるため、表面に細かな鉄の球をぶつけて鍛える「ショットピーニング」が施される。検査工程では、加工時の温度上昇で強度が低下していないかを特殊な薬液で調べる「ナイタルエッチ」や、ギアを磁化して肉眼では発見が難しい微小な傷を検出する磁粉探傷などの非破壊検査が繰り返される。
「当社の航空機用ギアの最大の特徴は、素材加工から熱処理、最終検査までの一貫した作業を行い、見えない部分での不具合を絶対に見逃さないノウハウを備えていることです。航空機用ギアの分野で、一貫したノウハウを持つのは世界に通用する強みです」(郷橋主事)

開発部門では、
ドライラン60分を可能にする
改善技術に見通し

トランスミッションの開発部門には生産とは違った難しさがある。例えば、より高回転・大馬力のエンジンの力を受け止めるベベルギアの開発や、軽量で薄肉であるが故に起きやすい振動を防ぐ仕組みづくりなど、ギア単体はもちろんユニット部品としてのトランスミッションの高精度・高能力を追求しなければならない。

トランスミッションの組み立て工程。上部に見えるのがローターを回すシャフト部分だ。
アクセサリー・ギア・ボックスの組み立て前検査では、ギアの噛み合わせや埃の付着がないかなどが厳重にチェックされ、検査担当者の帽子につけられたカメラでも記録される。
コンピュータによるシミュレーション技術の向上も、競争力に直結する。トランスミッション内の形状と潤滑油の流れや、歯の変形などをシミュレーションして最適な設計へと結びつけていく。

近年ニーズが高まっているのが「ドライラン」だろう。ドライランとは、トランスミッション内の潤滑油が失われても継続的に飛行できる耐久性を言う。そもそもは軍用ヘリが被弾して潤滑油を失っても安全地帯にまで飛べることを目的にしたものだったが、報道や救急用途などで近くに着陸する場所がない大都市上空を飛ぶ際の安全性能として、30分間の飛行能力が民間機にも義務付けられた。最近は海上の油田掘削基地と陸上を結ぶオフショア運用が増加しており、安全確保のためにさらに長時間のドライラン能力が求められている。設計部門の小笠原健太主事は、「川崎重工はすでに60~70分間ほど飛行を可能にする改善技術に見通しを得ており、今年度内にも実証試験に入る予定です」と打ち明ける。

そのキーポイントが冷却である。潤滑油が失われてもギアやベアリングの温度が上がらない、つまり焼き付きを起こしにくいように配置や構造などに工夫を凝らす。また素材そのものも対焼き付き性の高いものを用いる。ドライランが発生した際のトランスミッション内の各ギアの温度上昇や温度変化などについてコンピュータシミュレーション技術を開発し、ギア形状やベアリング配置などを最適化することが可能になっている。
「将来的には、新しい発想によるトランスミッションの開発につなげたいと考えています」(小笠原主事)

新型エンジンの
〝肝〟となるFDGS

将来の有望市場へも先手を打っている。連携先のP&W社が開発に成功したギアード・ターボファン・エンジン(GTF)向けの「ファン・ドライブ・ギア・システム(FDGS)」だ。
旅客機用のターボ・ファン・エンジンは、燃費を向上させるためにファンの大型化が図られてきたが、ファンの回転数とファンを駆動するタービンやコンプレッサが理想とする回転数は異なるために、性能向上に限界が出ていた。これを打破するのがファンとタービンの間にギアを噛ませ、それぞれの最適な回転数を両立させたGTFで、そのためのギアシステムがFDGSだ。

FDGSには、入出力が同軸駆動であることと、小型軽量にするために、遊星歯車が使われている。エンジンの伝達動力は2万馬力でヘリコプターをはるかに上回る。3万時間以上の信頼性も要求される。
開発を進める佐藤桂匡主事補は、「これほどの馬力になると、わずか1%のエネルギー損失でも約200馬力、つまり150kwを熱に変えてしまうことになり ます。そうなれば肝心の燃費を損ねるばかりでなく、熱を冷やすためのオイルや熱交換器などの重量やサイズも大きな課題になってしまいます」と解説する。

川崎重工の航空機用ギア製品開発

GTF用のギアシステムであるFDGS(右)は、次世代のオープン・ローター・エンジンにおいては二重反転駆動というさらに複雑な形態となる(左)
Copyright © Pratt & Whitney(写真提供:日本航空機エンジン協会)

そのために軽量コンパクトであるだけでなく、ギアの摩擦やオイルのかき混ぜなどによる損失を低減するための工夫も重要になる。佐藤主事補によれば、システム内のオイルは液体と気体が混じった複雑な流れになっており、これをコンピュータでシミュレーションする世界一の技術を川崎重工は保有している。さらには流れを最適化するだけでなく、潤滑と冷却の効果を最大化するなどの独自技術も編み出している。これによりエネルギー効率は99・6%を達成している。

「川崎重工の独自技術は、現在のGTFのさらに先の2030年以降に登場すると考えられるオープン・ローター・エンジン用ギアシステムの研究プロジェクトにおいて技術開発本部と共に開発しました。これをもとにさらに技術を磨いてイノベーションを提案していく計画です」(佐藤主事補)
トランスミッションもFDGSも外からは見えない目立たぬ存在だが、それなくして航空機の安全飛行はない。まさにギアがすべての核心を握っている。

For the Tomorrow

進む航空機の電動化を
支える「T-IDG®」

航空機では、エンジンの回転を利用して発電装置を回し、運航機器や機内設備で使う電力を賄っている。発電装置は、エンジンのアクセサリー・ギア・ボックスに据えられている。発電機は、エンジンの回転数が変化しても発電機を一定の速度に調節する定速駆動機構(無段変速機構)と一体化した発電装置「IDG(Integrated Drive Generator)」になっている。

IDGは油圧式変速機が主流だったが、川崎重工は独自技術により、航空機の定速駆動機構では世界初となる高速トラクションドライブ無段変速機構を用いた「T-IDG®」を開発し、防衛省のP-1/C-2に採用されている。本装置は特殊なオイルの粘性を利用して動力を伝達する方式のため、従来の油圧式よりもロスが少なく、部品同士の接触摩擦がないので耐久性が高いなどの特徴を備えている。航空機装備品の電動化(MEA*)の波はさらに強まっており、T-IDG®の大容量化を加速させ、民間市場への投入を目指している。

※MEA=More Electric Aircraft

Leader’s Voice

By 五井 龍彦 Tatsuhiko Goi

航空宇宙システムカンパニー フェロー ギアシステム技術担当

航空機用ギアで世界制覇をめざします

そもそもギアは、エネルギーの効率的な伝達のために活用され、一層の効率化を図ろうとすればするほどギアが果たすべき役割は高まり、大きな技術革新の可能性を秘めている部品です。
川崎重工の航空機用ギア事業は、ヘリコプターのトランスミッションのライセンス生産から始まり、その後は 技術開発本部と共にチャレンジを重ね、自社技術で類まれな性能と信頼性を創造しました。それを可能にしたのは、開発から製造までの一貫した体制を整えて工程間の課題を擦り合わせるものづくりの体制と、技術者たちのさまざまな挑戦を支援する闊達な風土でした。
その結果、トランスミッションの技術は、補機類を稼働させるアクセサリー・ギア・ボックスや航空機用発電装置「T-IDG®」へと発展し、今は「FDGS」という未来技術に裾野を広げようとしています。いずれもが航空機には欠かせない技術であり、今後の航空機産業の伸びやエンジンの“Geared”化※の進展を考えれば、私たちの事業拡大の伸び代は大きく、航空宇宙システムカンパニーの事業の柱の一つとして大いに期待されています。

航空機業界では、より低燃費、低エミッションへの飽くなき追求がなされています。従ってこれからは、さらに進化したGTFあるいはオープンローターといった次世代エンジンでなければ認められないような新潮流が始まるでしょう。そこでも核心的な部品となるのがギアであり、ギアなくしては次世代エンジンは成り立たないと言えます。
航空機業界の新潮流は、確かに欧米の大手メーカーによってけん引されていますが、それを実現するために必要なギア技術、言い換えれば核となり発展のポテンシャルの高いギア技術については、川崎重工は世界トップランナーです。むしろ私たちの技術革新が新しい潮流をけん引すると言っても過言ではないと自負しています。まさに「ギアを制すものは世界を制す」と言えましょう。

※“Geared”化=ファンを駆動するためにギアを用いること

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川崎重工グループの和文PR誌として、多彩な製品群が陸・海・空に亘る各分野で活躍する姿と、新製品・新技術の一端をご紹介しています。

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