Oct. 2020

革新の扉を開けたブロワ
世界に挑む「メガMAGターボ」

世界中の誰もが、美しい環境を後世に残したいと願っている。その鍵のひとつが下水処理だ。
下水処理場で「真の主役」といわれ、微生物による処理を支えているのが「曝気用送風機(ブロワ)」である。
川崎重工は、国内初の「磁気軸受型高効率曝気ブロワ MAGターボ」の開発で技術革新をもたらしたが、
さらに大型下水処理場向けの「メガMAGターボ」を開発し、再び革新と進化の扉を開けた。

  • 竹村 聡一郎
    エネルギー・環境プラントカンパニー
    エネルギーディビジョン
    エネルギーシステム総括部
    空力機械部 ブロワ設計課 主事
  • 橋本 章生
    エネルギー・環境プラントカンパニー
    エネルギーディビジョン
    エネルギーシステム総括部
    空力機械部 技術・開発課 基幹職
  • 市川 純
    エネルギー・環境プラントカンパニー
    営業本部
    陸用機械営業部 ブロワ営業課 課長

文明史に記される
「活性汚泥法」を支える「ブロワ」

第1次世界大戦が始まった1914年、イギリスで文明史に残る画期的な仕組みが導入された。下水(生活汚水と雨水)を「活性汚泥法」で処理する世界初の処理場が完成したのである。

活性汚泥法とは、微生物が入った汚泥(活性汚泥)と下水をかき混ぜ、下水中の有機物を微生物が食べて増殖することで、きれいな水に変える処理方法だ。微生物は、下水処理場では「生物反応槽」というプールにいる。下水処理の”心臓部”ともいえる最も重要な工程だ。そして微生物を活性化させるのが空気であり、空気をプールに送るのが「曝気用送風機(ブロワ)」だ。見方を変えれば「下水処理の心臓部を支える真の主役」は、ブロワなのである。

活性汚泥法の技術発展と共に、ブロワも専用機としての機能を発展させた。下水の量に応じて微生物を活性化させる風量の調整技術や、長期間の安定的な稼働技術などだ。しかし電力使用量の多さは、最も難しい課題として残っていた。下水処理場は、日本国内の電力の約1%(100億kWh/年)を消費し、ブロワはその6割を消費している。

その課題に技術革新をもたらしたのが、川崎重工が2004年に初号機を納入した「磁気軸受型高効率曝気ブロワ(MAGターボ)」である。MAGターボは、インバータ制御式※の高速電動機の軸端に羽根車を取り付け、電磁力でロータを浮上させて高速回転させ、圧縮空気を送り出す。ロータが浮いている、つまり機械的な接触がないので、高速回転保護のために必要な軸受や潤滑油システムなどの付帯設備を必要としない。

機械ロスを極少化させることで、消費電力量を15~30%削減。初号機の納入以来、すでに200台越えの受注台数を数え、19年度の国内の曝気ブロワ市場で7割のシェアを占める。納入されたMAGターボにより、概算で毎年5万トンのCO2削減に貢献している。

さらに川崎重工は、大型下水処理場向けに、磁気軸受型ブロワでは世界初の出力規模を誇る「メガMAGターボ」の開発に挑んだ。日本では年間約140億m3の下水が処理されるが、国土が狭いために分散された中小型の処理場が多い。一方海外では、大都市の処理を一括して行う大規模集約型が多い。例えば単体で1日の処理能力が30万m3の処理場は、日本では43カ所であるのに対し、アメリカには100カ所以上ある。

しかも国内外を問わず、施設の老朽化問題が深刻化している。高効率な装置による更新費用と運営費用の削減は世界共通の課題であり、これにひとつのソリューションを示したのが「メガMAGターボ」だった。

※インバータ制御式:モータを駆動する電源周波数や電圧を変化させて速度制御を行う方式

メガ出力でロータを回し
大風量を生み出す

2020年夏、川崎重工神戸工場の一角で、「メガMAGターボ M55」の出荷に向けた最終試験が続けられていた。曝気用ブロワとして、これまで世の中になかった革命的な大型出力の製品であるが思いの外に小型であり、それでいて力強い唸りを上げているのに驚かされる。

「MAGターボ」とは、磁気軸受(MAGnetic bearing)と回転式送風機(Turbo Blower)からの造語だが、それに「メガ(Mega)」という冠が付いた。理由は、モータ出力にある。
従来のMAGターボの最大機でもモータの最大出力は400kWだが、M55は1,300kWで、メガ(百万)の単位を超えた。これに伴い、吐き出し風量は毎分300m3から900m3に増え、吐出圧力も80kPaから100kPaに増強されている。

とはいえ羽根車(インペラ)を回す高速電動機とロータは、ロータ単体だけでも重さが700kgもあり、MAGターボの最大機の5倍以上にもなる。これを3ヵ所の軸受にある10個の電磁石で浮上させる。軸振動の幅はわずか20µm程度だ。

川崎重工エネルギー・環境プラントカンパニーの竹村聡一郎主事は、「これだけ重いシャフトを、20µmの幅で安定して浮上させ、かつ1分間に1万1,500回転もさせるには、磁気軸受の電磁石の吸引力を大きくするだけでなく、磁気軸受制御を行う制御機器や制御システムの技術開発も必要でした」と語る。

磁気軸受では、数ヵ所に配置された位置センサが、X・Y・Zの各座標軸に対するロータの位置を常に把握し、磁気軸受に対する電流値を制御することでロータを基準位置に保っている。「フィードバック制御」と呼ばれるもので、1秒間に1万回のレベルで位置情報を把握し、制御している。これを大出力の高速電動機でも制御できる技術を開発したのだ。

機電一体でゼロから
大型機を実現する

それと併せて重要な見直しを行ったのが、空気を圧縮するインペラだ。初代のインペラは、半世紀も前に川崎重工が自社開発したものだが、その形状や空気流路の設計は、常に最先端の技術で進化し続けている。川崎重工のフラッグシップ・モーターサイクル『Ninja H2シリーズ』の圧倒的なパワーを生み出すスーパーチャージャーの心臓部品もインペラだ。

エネルギー・環境プラントカンパニーの橋本章生基幹職は、「M55では比較的低い回転速度でも高圧力と高効率が両立するよう、遺伝的アルゴリズムという解析手法を駆使して最適な形状探索を行いました」と打ち明ける。そのうえで、吐出圧力が100kPaに近づくと圧縮熱によりインペラ温度が上がるため、高温度でも強度が確保できるようなアルミ合金を採用している。

インペラの前の空気入り口には扇型の羽根を開閉して旋回流をつくるインレットベーンがあり、その制御に加えインバータで最適形状の回転制御をすることにより、広い範囲で高効率に風量を制御することができ、フル稼働時でなくても能力を発揮する高い部分負荷効率を両立させている。

組み立て工程中のメガMAGターボ。手前側の吸込口奥に羽根のように見えるのがインレットベーン。

例えば単位風量(1m3)当たりの空気を60kPaまで昇圧する電気代を指標とすれば、従来型の大容量機と比べて約20%も削減できる運転結果も得られた。また同じ容量の圧縮空気を得るための装置スペースと比較すれば、半分ほどで済む。大型機なのに省エネと省スペースという特徴を実現したのだ。

橋本基幹職は、「磁気軸受という原理は同じでも、これまでの実績を大幅に超えた大容量モータに適用するには、機械部門と電気部門が一体になりゼロからの見直しが必要でした。とはいえ高価格ではビジネスとして成立しません。磁気軸受の設計や製造方法の再検討で大型化とコストレベルの両立を追求しました」と語る。

「ブロワ単体」から
「ブロワシステム」へ

メガMAGターボは2019年11月から、福岡県の御笠川浄化センターで実負荷運転されている。同センターは、日量約30万m3の汚水を処理できる九州屈指の大規模処理場だ。中型のブロワ2台に代わってM55を実負荷運転しているが、電気消費量が減っただけでなく、設置スペースが小さいので建設コストも削減できた。

ブロワの営業を担当するエネルギー・プラントカンパニーの市川純課長は、「高い効率性と省エネ、省スペースなどを実現したメガMAGターボは、圧倒的な競争力優位を誇っており、営業サイドでも胸を張ってお客様に更新提案ができます」と語る。

市川課長は「MAGターボは川崎重工のブロワビジネスを変えました」とも語る。小型から大型まで多様なラインナップが揃っただけでなく、「ブロワシステム」としてお客様に提案できるようになったのだ。

ブロワの運転制御や複数台を設置した場合の台数制御ができるので、散気装置(ブロワで送風した空気を生物反応槽内に拡散させる装置)メーカーと連携して、曝気システム全体での省エネ計画を策定できる。さらに遠隔監視で蓄積した運用データの分析を基に、新たな運用法を提言していこうとしている。

8月、神戸工場で出荷前の最終検査を受けていた「メガMAGターボ M55」は、ロシアの大型下水処理場に納入される。ここは1日に300万m3の汚水を処理できる欧州最大級の下水処理場で(ちなみに東京都で最大なのは森ヶ崎水再生センターで、処理量は約114万m3)、21年1月から随時8台のM55が導入され、運転を開始していく予定だ。「本件は処理場近代化の大プロジェクトですが、メガMAGターボの優れた性能を大規模集約型の施設ほど活かせると考えています」(市川課長)。

神戸工場で出荷前の最終試験に臨んでいる「メガMAGターボ M55」。
試験中の装置は、ロシアの下水処理場向けのもの。
写真左手奥に見えるのがM55、手前右側はM25。川崎重工は、すべての部品を自社製とした「第2世代」のMAGターボを2007年から投入。メガMAGターボは、厳密には「第3世代」になる。

MAGターボの進化はさらに続いている。メガMAGターボを軸にした下水コージェネレーションシステムの国際実証調査が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共に始まっているのである。例えば、クリーンエネルギーである天然ガスと処理場から発生するバイオガスをガスタービン発電設備の燃料として使う。発電された電力はブロワ用として使い、発生した熱は汚泥の乾燥用とする。つまり「電気+熱+空気」を賄うエコシステムを構築するなどと言ったことが可能になる。

橋本基幹職は、「メガMAGターボを中軸としたシナジーシステムにより、エネルギーの最適化を実現し、かつ持続的な下水処理モデルを創る試みです」と説明する。

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」では、第6番で「全ての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」と掲げている。川崎重工のブロワ事業は、まさにSDGsの実現をリードする力強い存在になっている。

For the Tomorrow

大阪市の下水道運営ノウハウを
古都サンクトペテルブルクへ。
川崎重工も高い技術力で支援

下水道施設の運営で歴史もあり、優れたノウハウを持つ大阪市は、その技術の国際的な展開を目指して活動を続けている。ロシアのサンクトペテルブルク市とは、姉妹都市の関係でもあり、2015年には上下水道分野での技術交流に関する覚書を締結。毎年、技術交流を進めながら同市の上下水道整備・近代化計画を支援している。川崎重工も下水道関連の技術交流に参加しており、「その高い技術力と市場開拓に対する熱いパワーが交流を後押ししてくれています。サンクトペテルブルク市の現場責任者が時間を過ぎても質問を重ねていた光景がとても印象的でした」(大阪市)といった評価を得ている。

大阪市とサンクトペテルブルク市の技術交流の覚書締結式。
(2015年11月 サンクトペテルブルク上水道公社)

Supporter’s Voice

By 笠井 康広 KASAI Yasuhiro

経済産業省 製造産業局
国際プラント・インフラシステム・水ビジネス推進室長

質の高い水インフラを世界に
2021年度北米MAGターボ第1号受注への期待

政府は、2020年に約30兆円のインフラシステム受注を目標とする、インフラシステム輸出戦略を2013年に策定しています。「官民一体となった競争力強化」、「受注獲得に向けた戦略的取組」、「質の高いインフラの推進」、「幅広いインフラ分野への取組」の四本柱の下、支援策の改善・拡充により2018年には受注実績が25兆円にまで増加するなど、一定の成果を上げています。

経済産業省では、トップセールスや政府間対話、事業実施可能性調査(Feasibility Study)、人材育成など、さまざまな政策ツールを活用し、日本の技術に対する相手国の理解促進に向けて積極的に取り組んでいます。

その一環として、「質の高いエネルギーインフラの海外展開支援に向けた事業実施可能性調査事業」を実施していますが、2019年度と2020年度には川崎重工の大出力磁気浮上式MAGターボの米国市場における事業化導入調査を支援しています。具体的には、北米に100ヵ所以上ある下水処理場を川崎重工にとっての潜在顧客と捉え、マーケティング分析や現地アフターサービスパートナーの絞り込み、北米実機稼働計画などに取り組む調査であり、2021年度以降の案件組成へと繋げる、いわば川崎重工のインフラ輸出戦略ともいうべき取り組みと考えています。

欧州に次ぐ規模を誇る北米の水ビジネス市場(2016年約18兆円)における、日本企業の占有率は0.1%※と限定的ですが、下水処理施設の老朽化に伴う設備更新や、水資源が少ないことによる再生水の飲用水化のニーズなどが高まっていることから、日本企業が参入するチャンスは大きいのではないでしょうか。

この市場への日本企業の参入に向けて、引き続き事業実施可能性調査を通じて日本企業のプレゼンスを高めると共に、国際イベント等を活用した情報発信など、官民が一体となって日本の企業の技術力をアピールしていきます。

今、足元では新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を機に、従来とは異なるインフラニーズに応えるための新たな展開が求められています。具体的には、デジタル化をはじめとする社会の変革がより一層加速する中、水インフラ分野では、根幹となる公衆衛生の更なる向上や、非接触・リモートでの監視・管理技術の普及が必要となっており、このような分野においても、日本の水インフラ企業の商機拡大や競争力向上を強力に支援したいと考えています。

こうした意味でも、新しい時代におけるインフラ輸出の象徴のひとつとして、2021年度に北米でのMAGターボ受注第1号が実現することを期待しています。

※出所:経済産業省公表「海外展開戦略(水)」(2018年7月)

仙台復興に
「MAGターボの力」を

街に下水を溢れさせてはいけない、海にきれいな水を帰さなければいけない──。
仙台市の人口の約7割をカバーする大型下水処理施設・南蒲生浄化センターは、
東日本大震災で甚大な被害を受ける。そこからの復旧を支えたのはMAGターボだった。

  • 五十嵐 慎也
    仙台市建設局 下水道事業部
    南蒲生浄化センター整備係 係長

杜の都・仙台は、下水道の先進都市でもある。近代的な下水道の建設に着手したのが1899(明治32)年で、これは東京、大阪に続く全国3番目の早さ。1964年に供用開始となった南蒲生浄化センター(宮城野区)は東北最大の規模を持ち、1日の処理能力は40万m3に及ぶ。

同センターは仙台港にほど近い太平洋岸にあり、2011年3月11日の東日本大震災では甚大な被害を受けた。襲った津波の高さは海側で10メートル、陸側でも4メートルを超えた。職員や作業員は全員、陸側の管理棟の屋上に避難できたことだけが幸いという状況だった。

完全復旧した南蒲生処理センター。海(太平洋)側に沈殿池、反応タンク、ブロワ・ポンプ棟、放流ゲートなど、陸側に汚泥処理施設、管理棟などが配置されている(1)。新ブロワ・ポンプ棟内では6台の「MAGターボ M25」が稼働している(2)。
2011年3月11日、南蒲生処理センターは大津波で各種の設備が水に呑まれて流され、甚大な被害を受けた。津波が引いた後のブロワ・ポンプ棟ではブロワの本体や配管は水没し、漂流物によっても被害を受けていた(3)。被災翌年の10月、応急処置として設置された仮ブロワ棟。水没したブロワ11台のうち解体・修理した2台に加え、試作段階にあったMAGターボブロワ1台なども設置された(4)。

職員らは翌日、自衛隊のヘリコプターに救助されるが、安堵している余裕はなかった。放流機能の確保、瓦礫の撤去、電力の復旧、そして下水の浄化…。同センター整備係の五十嵐慎也係長は、「当センターは、仙台市の人口108万人の約7割を担当する基幹施設。下水の大半が、標高で30メートルほど高い市の中心部から自然流入してくる構造のため、下水処理は途切れてはならない課題でした」と振り返る。

仮復旧ではブロワ機能の確保が大きなテーマだった。既存の11台は全て使用不能になっていたためだ。ブロワを納入していた川崎重工は、11台のうち被害の比較的小さかった2台を修復したのに加え、「MAGターボ M35」の試作機1台を緊急供給。センターは順次、機能を回復していった。

仮復旧による応急措置と併行して本格的な復旧も進められる。16年4月に完全復旧したセンターでは、「MAGターボ M25」6基が稼働し、高度な下水処理を支えている。「きれいな水にして太平洋に帰すことが使命」(五十嵐係長)である同センターにとって、MAGターボが果たす役割は引き続き大きい。磁気軸受機ならではの省電力、省スペース、静音性はもちろん、「トラブルが少なく運転状況の24時間モニタリングで安定稼働が実現している」(同係長)点が高く評価されている。

五十嵐係長は今後への期待を次のように語る。「人口減少に伴って、下水処理はますます効率向上とコスト抑制を求められます。環境面での課題の達成も不可欠ですから、エネルギー使用の削減は必須。ブロワも稼働する時間や台数、出力の制御がさらに重要になるので、AIによる最適化などに期待しています」。

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川崎重工グループの和文PR誌として、多彩な製品群が陸・海・空に亘る各分野で活躍する姿と、新製品・新技術の一端をご紹介しています。

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