社長インタビュー

川重冷熱工業は、川崎重工業グループの一員で、ボイラと空調機器の老舗だ。
2019年にボイラ製造を始めて120周年を迎えた。
まさに、明治、大正、昭和、平成、令和と、5つの元号にわたってボイラ作りを行ってきたわけだ。
事業継続の秘訣はどこにあるのか。
またこの先100年の将来像をどのように描いているのか。篠原進社長に聞いた。

■日本の産業成長とともに歩む

2019年にボイラ製造を始めて120周年を迎えられました。
これまでを振り返ると、どのような歴史だったのでしょうか。

 当社のルーツは川崎重工業の前身である川崎造船所と、蒸気機関車などを製造していた汽車製造です。産業革命から始まった工業化のまっただ中である1896(明治29)年に設立されました。その後、二度の大戦なども経ながら、まさに日本の産業の成長とともに歩んできたと自負しています。
 現在は川崎重工業グループとして、パッケージボイラと大型空調機(吸収冷温水機・冷凍機)の2つの事業で、設計・製造・販売・メンテナンスまでを一貫して行う熱源機器メーカーとなっています。最近では海外市場も積極的に取り組んでいます。
 1990年には株式を店頭公開。株式をジャスダック証券取引所(現・東京証券取引所JASDAQ)に上場しました。

事業を120年間も続けることはなかなか容易ではありません。
秘訣は何だったのでしょうか。

 一口で言えば、いつの時代も「お客様に寄り添う気持ち」を忘れなかったことではないかと考えます。
 振り返ればこの120年間は、エネルギーや環境の変化にともなうお客様の要望への対応の連続でした。ボイラで言えば、燃料が石炭から重油、ガスへと変化する中、当社は燃焼技術を強みとして、お客様が必要とされるものは何かを考え、形にしてきました。
 時には当社が持ち合わせていない技術課題を解決しなければならないことも少なくありませんでしたが、その都度、新たな燃焼技術、熱交換技術、制御技術の開発に挑戦し、お客様のご期待に応えるよう取り組んできました。
 開発・設計をはじめ丁寧なモノづくりにも自信があります。ある大手化学メーカー様では、1960年代に製造された当社のボイラがつい数年前まで半世紀以上にわたり稼働していたほどです。

「お客様に寄り添う」ことで、貴社のボイラが、
お客様企業の事業を支えるとともに、貴社自身の
付加価値を高めることにもつながってきたわけですね。

 はい。ある大手タイヤメーカー様で、海外新工場建設の際のユーティリティ(動力源、給水、空調などの設備)のご要望にお応えできたことが、当社貫流ボイラ*ビジネスの海外進出の扉を開きました。
 また先ほどとは別のある大手化学メーカー様では、生産の過程で出る並産物(水素ガス)を燃料として利用する体制を構築したいというご要望をいただいたことがきっかけで、水素ガスを燃焼させる技術を生み出すことにつながりました。
 このほか、貫流ボイラは蒸気圧力を安定させるといった機能では、大型ボイラに劣るという評価が一般的であった時代に、お客様の要望がきっかけで、大型ボイラ並の制御機能を貫流ボイラに搭載することも実現できました。当社には「日本初」「世界初」という製品も少なくありません。いずれも、お客様に寄り添い、ご要望にお応えするために技術を磨いてきた結果です。

*パッケージボイラの国内市場の9割を占める。大型ボイラと比較し、扱いやすくコンパクトなボイラ。

■新しいものを取り込んでいく

現在の事業環境をどのように捉えていますか。
また、そのような環境下でどのような取り組みを
進めていくお考えでしょうか。

 地球温暖化防止の国際的枠組みである「パリ協定」の締結などにより、世界は急速に脱炭素社会に向けて進んでいます。最近では、お客様企業においても、「持続可能な開発目標(SDGs)」やESG投資を視野に入れた経営に取り組もうとするところが増えています。
 クリーンエネルギーや再生可能エネルギーはこれまで以上に存在感を増すでしょう。中でも水素は、燃やしてもCOを排出しないため、電力、運輸、熱・産業プロセスのあらゆる分野の低炭素化への貢献が見込まれております。当社は水素を活用した熱源機器の開発に力を入れています。また、川崎重工業グループは、将来の水素エネルギーの普及を見据え、水素エネルギーサプライチェーンに必要なインフラ技術の開発・製品化に取り組んでいます。当社にとっても、社会の要請に応え、大きく貢献できると考えています。

製品やサービスの提供を通じて、
社会課題の解決に貢献していくというお考えですね。

 水素燃焼で課題となる低NOx化をクリアしたバーナー開発にメドが付きました。貫流ボイラに搭載し商品化する予定です。生産工程の副産物・並産物として水素が発生する化学品メーカー様などに有効活用していただけます。これらを含め、ボイラ単体だけのモノでなく、エネルギーを活用するコトについて、トータルにソリューションを提供したいと考えています。
 水素利用の話が続きましたが、一方で足元の課題は、エネルギー施策に示されているように化石燃料も活用するエネルギーミックスの実現です。当社も省エネ、省資源化の取組みを継続して行きます。これら取組みの成果を海外進出している日系企業等にも積極的に提案し、広く、社会課題の解決に貢献したいと考えます。

次の100年、120年に向けての意気込みを
お聞かせください。

 世の中の変化は激しく、100年先はもとより、5年先、10年先の変化もなかなか予測しづらいところです。
 しかし、どのような変化が起きても、これまでの120年と同様に「お客様に寄り添い、お客様のご要望にお応えするために技術を磨く」という企業文化、DNAを守りながら、新しいことに挑戦し、取り入れていくことで、環境の変化に対応できる事業継続が可能だと確信しています。