Interview

「ボイラの燃料に水素を」
お客様とともに技術革新を実現

ソーダ工業にとって、ソーダ電解ではかせいソーダ(水酸化ナトリウム)、塩素、水素が並産されるため、
水素とは切っても切れない関係にある。
どの企業も水素を燃料として活用することを検討し、その取り扱いについて工夫を重ねてきた。
株式会社大阪ソーダでは、川重冷熱工業とともに技術革新に取り組み、
ボイラの燃料に水素を活用する仕組みを実現した。

小西 淳夫

かせいソーダなどの基礎化学品に加え付加価値の高い機能化学品も成長

大阪ソーダ誕生のきっかけは一つの画期的な技術だ。1913(大正2年)に、門多道別氏が、日本で初めて食塩電解の工業的連続製造法(水銀法電解ソーダ製法)を確立。その技術をもとに1915年、大阪市に「大阪曹達株式会社」が設立されたのである。

1988年には社名をダイソーに変更したが、2015年に創業100年を迎えた際、創業時の精神を進化させるという思いから「大阪ソーダ」に変更した。

執行役員 生産技術本部長の小西淳夫氏は事業の変遷について次のように紹介する。「かせいソーダ(水酸化ナトリウム)や塩素・塩酸、次亜塩素酸ソーダなど創業以来の基礎化学品に加え、最近では高付加価値の機能化学品、医薬品関連なども伸びています」

塩を電気分解して製造されるかせいソーダや次亜塩素酸ソーダは、紙・パルプ・繊維の漂白、上水道の滅菌など幅広い分野で使用されている。一方で、スペシャリティケミカルと呼ばれる機能化学品は、電子部品や自動車部品などに使用されているが、同社には国内外で高いシェアを誇る製品も多い。半導体の封止材などに使われる「ネオアリルG」、電子・電機部品や食品包装用インキに使われる「ダップ樹脂」はいずれも世界トップシェアだ。また、液体クロマトグラフィー用シリカゲル「ダイソーゲル」、省エネタイヤ用改質剤「カブラス」はいずれも国内トップシェアで、世界でもトップクラスのシェアを誇る。

ソーダ工業にとって大きなテーマの一つは「水素の利活用」

大阪ソーダは、小倉工場(九州地区)、尼崎工場(関西地区)、松山工場(四国地区)、水島工場(中国地区)の4生産拠点を国内で展開。海外では米国、ドイツ、中国、台湾、タイなどにネットワークが広がる。

小西氏は「当社が持続的に成長を続けるためには、グローバルニッチとも言える機能化学品と、創業から連なる基礎化学品の両方を強化していく必要があります。既存の生産拠点についても、さまざまな改革を進めてきました」と話す。

多様なテーマに取り組んでいるが、その一つが「水素の利活用」だったという。かせいソーダは塩を電気分解(電解)して製造する。電解法には「水銀法」「隔膜法」「イオン交換膜法」などがあるが、現在は「イオン交換膜法」が主流だ。電解の並産物として塩素と水素が得られる。

電解しただけでは、かせいソーダは約32%の濃度にしかなりません。そこで、これを蒸発缶でさらに濃縮して、約48%の濃度にします」(小西氏)。

国内の主力生産拠点である尼崎工場では、濃縮工程に川重冷熱の炉筒煙管式ボイラが使われている。特筆すべきはその燃料が水素の専焼(特定の燃料のみ使用すること)であることだ。
「かせいソーダを製造する電解では、並産物として水素が発生します。当社自身でも水素は使いますが、当初は余った水素は捨てていました。そのうち『もったいないので燃やせるのではないか』と考え使うようになったのですが、それでもずっと、重油などの燃料との混焼でした」と小西氏は話す。

前例のない課題にも川重冷熱が積極的に取り組み解決

2003年、大阪ソーダ尼崎工場では既存のボイラのリプレイスを控え、一つの大きなテーマを掲げていた。 「新たなボイラは水素の専焼でいこうと考えました。ただし、水素は燃焼速度が速いなどといった技術的な問題がありました」と小西氏は振り返る。

その数年前、同社の松山工場でも別型式の川重冷熱の水素だきのボイラが導入された例があった。だが、尼崎工場には導入に際して大きな課題があった。 「尼崎工場では、かせいソーダの製造量が昼間と夜間とで大きく異なりました。このため並産物である水素の流量も大きく変化しました。また、水素の発生量に合わせた燃焼制御を希望していたため、自動制御のためには水素の流量をワイドレンジに正確に計測する必要がありましたが、これが容易ではありませんでした」(小西氏)。

川重冷熱にとっても未経験なため、最終的には海外の計測器メーカーの大きな幅の流量を計測できる機器を見つけ出し装備した。納入当初はその計測に苦労もしたという。 「川重冷熱の担当者やエンジニアは、当初は『無理かも』と言いながら、『これならできるかもしれない』といろいろなアイデアを出してくれました。エコノマイザ(ボイラ効率を上昇させる機器)が水素含有成分で腐食するといった現象にも、さまざまな素材を検討し対応してくれました」と小西氏は語る。

同社と川重冷熱の技術革新によって生まれた「水素の専焼ボイラ」は、長年水素の利活用をテーマに掲げてきたソーダ工業界でも注目される事例となった。

小西氏はさらに「今回は炉筒煙管式ボイラで水素専焼を実現することができましたが、今後は貫流ボイラでも水素専焼ができれば」と川重冷熱に期待する。

新しいニュースもある、その期待に応えるように川重冷熱では、2019年度の市場投入を目指して水素専焼貫流ボイラの完成を目指すと発表したのだ。

小西氏は「景気に回復感があり、当社製品への引き合いも増えています。生産量が増えると副生物である水素の量も増えるため、今後の技術開発に期待したい。」と話す。

小西氏はさらに、「水素社会」の実現を視野に入れた取り組みも視野に入れているという。「お客様の要請に応えて製品を納めておしまいというのではなく、広くエネルギーシステム全般を提案できるようになりたいと考えています。その点で川崎重工業グループは『電気』『熱』『水素』などをトータルに最適化できる技術力を有しています。トータルにコーディネートしてほしいと思いますし、ぜひ一緒に何かできればとも考えています」

水素社会の一翼を担う役割として大阪ソーダの存在意義もさらに高まろうとしている。