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Feb. 2017
Project Voice
05

日本が世界に誇る
世界一のスライド扉。
それは、宇宙への扉となった。

森 秀樹 Hideki Mori
プラント・環境カンパニー/低温貯槽プラント総括部/低温貯槽プラント部 設計二課/担当課長

種子島宇宙センターを飛び立つ
すべてのロケットが組立てられる場所

VAB(大型ロケット組立棟:Vehicle Assembly Building)。それは宇宙航空研究開発機構(JAXA:Japan Aerospace eXploration Agency)の種子島宇宙センターにある大型ロケットの整備組立棟である。1999年にH-ⅡAロケット向けに建造された設備で、2005年にH-ⅡBロケットにも対応できるように改修され、現在(2016年2月末)まで16年間現役稼働している。ロケットは、打上げまでの間にVABの中で、1段及び2段ロケット、固体ロケットブースタが起立・結合され、衛星を組み込んだフェアリングの搭載作業を経て、射座と呼ばれるロケット発射地点に移送される。このロケットの組立・整備を行う建屋に、川崎重工業の技術の結晶の一つとも言える“世界一のスライド扉”がある。

ギネスワールドレコードに載った
世界一巨大なスライド扉

高さ67.5m、幅27.0m、厚さ2.5m、重さ400トン/枚。油圧モータによって開閉されるスライド扉は2005年にギネスブックに登録された世界一巨大な引違い扉だ。H-ⅡAロケット以前は、分割された扉を各々上部に吊上げる『吊上げ式』であったが、H-ⅡAロケットでは襖や障子のように左右に開閉する『引違い式』が採用された。一見、単純に思える仕組みではあるが、建造するのは比類無き大きさと重量を擁する扉であり、打上げ当日に確実に動くことが求められる最重要設備の一つである。そのため、川崎重工業の技術者たちは構造設計段階からあらゆる事象を視野に入れて討議と分析を行った。

16年間、打上げに貢献し続ける
その確かな技術の裏にあった分析力

森「VABに引違い式のスライド扉が採用された経緯には、多くの紆余曲折がありました。設計案として浮上したのは、『吊上げ式』『引違い式』『観音開き式』の3種の方式です。どの案も採用することは可能でしたが、VABには“連続打上げを可能とするため2機同時整備が可能であること”というコンセプトが存在しており、2機同時に整備できる分、VABの全幅が大きくなるという点を考慮する必要がありました。『吊上げ式』では扉の重量がネックになりました。軽くすることも検討しましたが、その分強度は落ちてしまう。もう一方の『観音開き式』では、重量の問題こそなくなりますが駆動装置が複雑になるというデメリットがありました。加えて、両案共に台風の多い種子島では耐風強度不足に陥るケースが考えられたため、すべての面において最適と判断された『引違い式』を選定しました。人工衛星やロケットなどの精密機器に電磁障害を与える恐れがあったことや万が一の事故に備えた防爆の観点から、駆動装置は川崎重工業が誇る油圧システムを採用しました。これらあらゆる検討がなされたスライド扉は、16年間、打上げに影響を与えるトラブルは1度も発生しておりません。」

日本の新しい宇宙事業の幕開け

H-ⅡAロケットは30機、H-ⅡBロケットは5機(2016年2月末現在)。川崎重工業が設計・施工を担当したVABで組立てられたロケットは、どれも大空を越え宇宙へと旅立った。そして、時代は2020年に初フライトを目指す新型基幹ロケット「H3ロケット」へ。現在、川崎重工業ではH-ⅡA/H-ⅡBロケットの後継機であるH3ロケットへの対応を視野に入れたVABの改修計画が進んでいる。日本の宇宙事業の次世代を担うH3ロケットもまた、この世界一のスライド扉を有するVABで組立てられていくのだ。そして、その扉が開いたとき、日本の宇宙事業の新たなる幕が開く。

ロケットを飛ばす、その原動力は
“愛着と責任感”

森「我々を突き動かす原動力は愛着と責任感に他なりません。もちろん、一人のエンジニアとして宇宙事業に携われているという誇りもあります。そこには技術、情熱、忍耐など、あらゆる能力が必要になってきますが、その全てを支えているのはエンジニアとしての愛着と責任感だと思います。ロケットの打上げでは、各メーカーがそれぞれのミッションを確実に遂行することが求められます。一つひとつの作業を、基本に忠実に、決められた時間内で、妥協せず、コツコツと進めていくこと。そして、お互いがお互いを敬うこと。種子島宇宙センターは、一人の人間の力で成り立っているのではなく、すべてのエンジニアが会社という垣根を越えて助けあうことで成立しているように感じます。もちろんぶつかることもありますが、最終的なゴールは皆同じ。無事にロケットを打ち上げて、人工衛星を宇宙に送ることなのです。そのために我々は、設備の設計・運用・保全を行っているのです。現在まで、多くのロケットを宇宙に送ることができましたが、まだまだこれから。この先ずっと設計・運用・保全を続けていけるよう、技術にさらなる磨きをかけ、新しい宇宙事業を切り拓いていきたいと思っています。」

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