Jul. 2019

破砕の力を大地へ「アーステクニカ」の草木類バイオマス活用

あらゆる産業分野を支えてきた破砕・粉砕という技術が
今、草木類バイオマスの有効利用に役立っている。
大地の力を甦らせる微生物たちに活躍の場を与えたのは、
「砕く」という技術だった。

  • 藤嶋 祐美
    農家、ほんまもん農作物推進
    ネットワーク代表
  • 廣瀬 慎介
    臼杵市役所農林振興課副主幹
  • 竹尾 幸喜
    土づくりセンター総括
  • 中尾泰博
    臼杵市環境保全型農林振興公社
    事務局次長
  • 萱場 時男
    株式会社アーステクニカ
    営業部 環境営業課
    参与

土を甦らせ、
有機栽培を支える

「吉四六民話と隠れキリシタンの里」として知られる大分県臼杵市野津地区。6月中旬の初夏、夏野菜を栽培する藤嶋祐美さんの畑にはモンシロチョウが群舞していた。
「農薬を使わないのでモンシロチョウが作物に群がるんです。有機栽培では、虫も栽培循環のひとつと考え、その上でネットを張るなどの農薬以外の防虫法を施します。手間はかかりますが、できた野菜は自然の恵みをたっぷりと受け、味も良いんですよ」と藤嶋さんは語る。

藤嶋さんの有機栽培を支えているのが、「臼杵市土づくりセンター」(臼杵市環境保全型農林振興公社が運営)が製造した完熟堆肥「うすき夢堆肥」だ。7反半(2,250坪)の農地で、1反当たり毎年2トンほどを混入する。

堆肥といえば畜産糞尿を主原料とするものがほとんどだが、「うすき夢堆肥」は原料の8割が剪定枝などの草木類バイオマスから作られており、主元素である炭素を微生物による分解を経て腐植質に変えていく。そして腐植質を獲得した土壌は地力を回復してくれる。その結果、自然本来の姿に近い“本物の土”へと甦らせてくれるのだ。

畑の土を手にすると、畜産糞尿系の土に特有の重くベタついた感じはなく、サラサラと軽い。「堆肥の団粒構造が土を変えているのが実感できるでしょう。この土なら野菜ものびのびと育ちますよ」と藤嶋さんは笑う。

「うすき夢堆肥」の製造現場で活躍しているのが、川崎重工グループの破砕機メーカー「アーステクニカ」の破砕・膨潤処理システムだ。特に膨潤機は「植繊機」という独自の技術で、破砕された剪定枝を加圧・混練・すり潰し、昇温と同時に木質内部で保持している水分を外に滲み出させる。そして最後に圧を解放して膨らませることで、微生物が住みやすい性状に変換する。

草木類バイオマスは、その自然性や有効性が認められながらも、処理方法に多くの課題が残っていた。それを膨潤処理技術によって多目的利用が可能な資源へと変貌させたのが、アーステクニカの植繊機だ。そもそも岩石の破砕・粉砕から始まった“砕く技術”は今、人と環境にやさしい応用技術として活躍の場を広げようとしている。

”ほんまもん”をつくるために
必要だったこと

臼杵市が土づくりセンターという専用施設を建設してまで堆肥づくりに力を注ぐようになったのは、「有機栽培を奨励するには、まず土づくりから支援する必要があったから」と農林振興公社事務局の中尾泰博次長は説明する。

そもそも臼杵市で有機栽培への取り組みが始まったのには2つの理由があった。ひとつは学校給食の食材調達で“体にやさしい野菜”を求めたこと。もうひとつは、化学肥料や化学農薬に頼らない、生命力あふれる美味しい農作物を市民に提供したいという思いだった。

臼杵市農林振興課有機農業推進室の廣瀬慎介副主幹は、「有機栽培によるほんまもんの農産物をつくることで、臼杵の農業を再生しようと10年以上の取り組みを続けてきました」と語る。有機による「ほんまもん農産物」の栽培には、約60戸の農家が取り組んでいる。名乗りを上げた農家では「うすき夢堆肥」を使い、市が土壌分析を毎年行う。
「ほんまもん」と認証されると、収穫野菜には金色の下地に「ほ」の字が白抜きされたシールを貼ることが許される。

臼杵市野津地区にある土づくりセンター。有機栽培によるエコシステムの中核施設だ
土づくりセンター内での堆肥づくり。膨潤処理された草木類と畜産糞尿をじっくりと混ぜ合わせることで(上)、「うすき夢堆肥」ができあがる(下)

栽培物で高付加価値化が進んでいるのは甘藷(サツマイモ)やピーマンなどで、「甘藷では『甘太くん』ブランドを確立し、ピーマンでは年間出荷高が3,000万円になる農家も生まれている」(廣瀬副主幹)という。

臼杵市では毎年4〜5人の移農者(新規就農者)がいる。3年間の研修後に独立する「地域おこし協力隊」と、1年間のピーマン栽培研修後に独立する「アグリ起業学校研修生」だ。その多さは異例というべきもので、就農希望者の夢と臼杵市の“有機栽培戦略”が共鳴していることのなによりの証しだ。

ちなみに「うすき夢堆肥」は、1トン当たり5,000円で販売されるが、原料となる剪定枝は1トン当たり300円で購入している。取材中にも地元の福祉団体が剪定枝をトラックで運んできた。活動資金を得る一助になるそうだ。このように臼杵市の有機栽培は、様々な生活者をつなぐエコシステムとして機能している。

潰し、壊し、切ることが
土づくりを決める

土づくりセンターが製造する「うすき夢堆肥」は、草木類に破砕・膨潤処理を施し、3次の発酵過程を経て、完成までに約6ヵ月間を要する。年間製造量は1,600トンだ。「うすき夢堆肥」の製造には、①破砕②風力選別③定量供給④膨潤処理の4つの工程がある。この一連のシステムを構築しているのがアーステクニカだ。

植繊機に入った木質チップはドリルで圧縮され、最後のシリンダエンド部分にある抵抗ピンでさらに圧縮・解繊されるとシャーナイフで切られ、トップカバーにより粒度調整された膨潤処理物が排出される。

森林組合などから土づくりセンターに持ち込まれた剪定枝はまず、回転する両面刃が並ぶ破砕機に投入され、5センチほどの木質チップになる。
土づくりセンターの竹尾幸喜さんは、「原料となる剪定枝には、そのエリア独特の植生の違いがあります。竹が多い、柔らかな繊維の枝が多いなど、地域の実情に合った破砕条件があるため、1年ほど検証を繰り返し最適な破砕方法を探りました」と語る。

木質チップは、風力選別機で石などの異物、比重の重いものを選別除去した後、定量供給装置に入り、堆肥のクオリティーを左右する植繊機へと投入される。土づくりセンターに設置されているのは毎時2トンを処理できる「SM30-110型」。
太さは0.5メートル、長さは約4メートルあり、モーターを備えた円筒形の装置だ。

筒の中では大きなスクリューが回っており、投入された木質チップは、投入口から排出口に向かって圧力を受けて高圧で前に向けて押し潰されていく。圧力によって熱が発生し、木質チップの水分が蒸気となる。

圧縮された木質チップは、植繊機のクライマックスともいえるシリンダエンドに入る。約50センチのシリンダエンドには、太さ5センチ、長さ10数センチの「抵抗ピン」と呼ばれるネジが3方向から巻き込まれており、木質チップはこれでさらに圧縮・解繊され、排出口手前で回転する「シャーナイフ」によってバラバラにカットされて排出穴から一気に押し出される。

土づくりセンターではこの膨潤処理物と発酵を促進するための畜産糞尿を8対2で混ぜ、3段階の発酵工程に入る。1ヵ月を掛けた混ぜ合わせ作業を繰り返し、約6ヵ月で「うすき夢堆肥」ができあがる。

(上写真)アーステクニカの破砕・膨潤システム。写真右手にある破砕機に剪定枝が入れられ、破砕後の処理物である木質チップは中央奥の風力選別機と定量供給に入り、膨潤機に送られ、写真左手から膨潤処理物として排出される(下写真)。
膨潤処理物はコシのある綿のようにふんわりとしている。

自然と闘う技術から、
自然を再生する技術へ

植繊機の開発・販売を担ってきたアーステクニカ環境営業課の萱場時男参与は、「シリンダエンド内の小さな空間では、膨潤処理物の生成に必要な全ての作用が連続的に切れ目なく発生します。特に抵抗ピンでのすり潰し効果、シャーナイフでの繊維せん断と圧の解放による膨潤化、膨潤物の解繊化といった作用により、堆肥化で進める腐植質の出来が決まります。私たちが持っているのは、そのトータルな知見なのです」と言う。

シャーナイフはタングステンの粒を溶射した超硬具だ。排出直前でなされる作業だけに、シャーナイフの性能は抵抗ピンと共に植繊機の性能を決定づける。

萱場参与は、土づくりの専門家資格「コンポスト生産管理者」を持つほど堆肥と土の関係を追い求めてきた。草木類を主原料とする堆肥化は、考えてみれば山が自然の営みで長い年月をかけて作る腐葉土であり、そこで主役となる微生物の活動環境を人為的につくることだ。

アーステクニカは、破砕、粉砕、選別といった基盤技術をベースに、岩石などの大きいものからコピー機のトナーなど超徴粉まで応用域を広げてきた。そして今では再利用が難しかった草木類バイオマスの破砕・粉砕でも不可欠な存在となっている。

「岩石のように硬いものを破砕・粉砕するという、大自然に対抗するかのような重厚長大な技術が、実は草木類の処理でも鋭い切れ味を示し、良質な堆肥づくりに貢献できている。また、そうしてできた堆肥は、今度は人にも環境にもやさしい土づくり、有機栽培へと活用される。こういった新たなエコサイクルを創り出せるところに、植繊機技術の醍醐味がありますね」(萱場参与)。

For the Tomorrow

最大の難題である竹を
有効活用するために──。
「竹パウダー」の検証へ

日本の野山の植生で最も生命力が強く、それ故に処理が課題となっているのが竹だ。アーステクニカは、農業分野で豊富な知識を有する(株)リバネスと共に、植繊機を使った竹のパウダー化と、その土壌変化や農作物の生育・収穫に対する検証を、島根県益田市を実験地として開始した。検証は2019年5月から始まっており、竹パウダーの土壌改良剤としての有効性を、物理的、化学的、生物的に明らかにすることで、竹林被害に大きな貢献をもたらすものと期待されている。

Leader’s Voice

By 柴崎 剛 Tsuyoshi Shibazaki

株式会社アーステクニカ
営業部部長

破砕・粉砕は環境貢献の重要な
一手段になっています

アーステクニカは、主に物を破砕、粉砕する機械を開発・販売するメーカーです。これまでは、破砕機・粉砕機の利用が多い鉱山や砕石場に納入してきましたが、近年では、破砕・粉砕の技術が環境に貢献するものとして重要視されてきました。例えば、廃棄自動車やプラスチック、コンクリートなど産業廃棄物の破砕・粉砕は、資源の再活用に繋がっています。現在、当社の環境関連事業は、鋼屑分野、容器包装プラスチック分野、産廃・建廃分野の3分野で展開しており、重要な事業の1つとなっています。
その中で私たちは2017年に、神鋼造機(株)から植繊機事業を譲り受けて環境関連事業の強化を図りました。これまで、植繊機は、膨潤処理技術を用いて、剪定枝葉などバイオマス資材の資源化のため、主に自治体向けに納入されてきました。現在、我々は新たな可能性を追求しており、手始めとして、竹の活用を考えています。

竹は腐りにくく、再利用もしにくいほか、里山への浸食などが問題にもなっています。こうした竹を植繊機で処理し、パウダー化することで、土壌改良材や飼料として利用することが期待されています。
さらに、従来から当社の破砕機を利用していただいているお客様には、農業事業への参入を検討されている方もいらっしゃいます。こうした方々にも広く植繊機を普及させたいと思っています。 “破砕機”と“植繊機”が従来のお客様の新事業に貢献出来る可能性が広がっているのです。
“破砕機”と“植繊機”がバイオマス資源の活用を通じて、お客様の新事業に貢献できるものになるよう、私たちは努力を続けていきます。

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