Jul. 2018

実証段階を迎えた
“Hydrogen Road"
〜水素社会への2nd Step〜

ポートアイランド(写真上)に設置された水素ガスタービン。発電機を回すと共に、排熱でボイラを稼働させるコージェネレーションシステムの要だ。

つくる

〜豪州政府も協調する水素製造〜未利用資源・褐炭の経済的、
環境的メリットに理解が進む

  • 吉野 泰メルボルン事務所長
    ハイドロジェン エンジニアリング
    オーストラリア(HEA)

オーストラリア・メルボルンから東へ約150㎞のラトロブバレー。周囲14㎞にわたり褐炭層が広がっている。日本の総発電量換算で240年分に相当するエネルギー量だ。

この地でJ-POWERがNEDOの実証事業のひとつとして担うのが、褐炭のガス化だ(以下、NEDOポーション)。そしてNEDOポーションとは別に、ガス製造の後工程になる水素ガスの精製、液化水素の製造、貯蔵・荷役設備などのパイロットプラントの建設が、オーストラリア政府とビクトリア州政府の補助を受けて始まろうとしている(以下、豪州ポーション)。
豪州ポーションは川崎重工の他、岩谷産業、J-POWER、丸紅、オーストラリアを代表するエネルギー大手企業、AGLの5社がコンソーシアムを組んでいる。オーストラリア政府との主契約者が、川崎重工の現地法人ハイドロジェン エンジニアリング オーストラリア(HEA)だ。

プロジェクトマネージャーであるHEAの吉野泰メルボルン事務所長は、「豪州ポーションは技術的な課題はすでにクリアしており、プロジェクト全体としては、水素エネルギーの商用化がオーストラリアにもたらす経済的な利益や環境への貢献について、地元で理解を得ることに力を注いでいます」と説明する。

2018年4月に開かれた豪州政府とビクトリア政府のプロジェクト公開式典。「オーストラリアが世界初のシステムで世界の環境に貢献する」と地元でも歓迎された。

パイロットプロジェクトについて現地では、「水素社会の先陣を切る世界初の取り組みであり、数百人規模の雇用創出にも繋がる」(ビクトリア州政府)と歓迎している。一方で、オーストラリア国民の環境意識は高く、化石燃料である褐炭を原料として使うことや、水素製造の過程で出るCO2の処理問題についての関心が高い。

ただ原料となる褐炭は石炭としては若いもので、水分の量が50~60%と多く、乾燥すると自然発火しやすく輸出が困難なため、現地での発電でしか利用されていない。こうした事情から、「褐炭の欠点を克服するのが水素エネルギーの原料としての利用であり、未利用資源に経済的な付加価値をもたらす、という評価が定着してきています」(吉野事務所長)。
また、商用化を見据えて褐炭からの水素製造の過程で発生するCO2については、豪州政府が推進すCCS(二酸化炭素の分離・吸収・貯留)プロジェクト「カーボンネット」と連携している。

豪州ポーションにおいて川崎重工は、個別には荷役基地の建設と運用評価を行う。基地はすでに基本設計を終え、資材供給者や施工業者の選定を経て19年4月に着工、翌20年6月には竣工させる予定だ。
その後、試運転を経て20年秋には液化水素がつくられ、搬出される体制が整う。それを運ぶのが、液化水素の専用運搬船だ。

豪州南西部にある広大な褐炭炭田・ラトロブバレー
ラトロブバレーでJ-POWERが建設を進める褐炭からの水素製造装置のイメージ図。つくられた水素は次の水素精製工程に送られるが、精製から搬出までの下流工程はオーストラリアのプロジェクトとして展開されている。

ためる はこぶ

〜液化水素運搬船建造と荷役基地建設〜世界初となる水素の
長距離輸送の実現により
エネルギー利用の新世紀を拓く

  • 新道 憲二郎副部長
    技術開発本部 水素チェーン開発センター
    プロジェクト推進部

水素はマイナス253℃の極低温で気体から液体に変わり、体積が800分の1になる。オーストラリアから日本までは約9,000㎞。その海上輸送を担うのが液化水素運搬船だ。
HySTRAでは川崎重工が運搬船を建造し、シェルジャパンが運航を担う。建造されるパイロット船は18年度後半に建造が始まり、20年度末にはオーストラリア〜日本間の初航海に臨む予定だ。
搭載される液化水素用タンクは1基で、容積は1,250㎥。魔法瓶のような二重殻で、設計圧力は標準大気圧の5倍に設定されている。

「断熱性ではLNGの10倍の性能が必要だが、その製造にはLNG用輸送タンクの知見や当社が種子島宇宙センターに設置した液化水素タンクの製造技術が活かされている」と語るのは技術開発本部水素チェーン開発センターの新道憲二郎副部長だ。
「世界初の液化水素運搬船となることから、その安全性には十分注意しており、緊急時の水素放出に対する安全評価も含めながら、輸送用タンクの技術開発を進めてきました。液化水素はLNGと比較して、蒸発し易く、分子が小さいことから漏れやすい性質があります。これまで培ったLNG用タンクの製造ノウハウに、『地下から宇宙まで』の製品群を製造してきた、当社の技術を結集しています」。

国際海事機構(IMO)では、日本が提案した液化水素輸送のための安全要求基準が正式に承認された。日本が液化水素のルールづくりに貢献する第一歩だ。

液化水素を受け入れる荷役基地は、神戸空港島の一角に設置され、川崎重工がプラントシステムを建設し、岩谷産業が運用する。ここでも液化水素を船から貯蔵タンクへ搬送するローディング設備の断熱・密封性能が安全確保のポイントとなる。「動揺する船と地上貯蔵タンクとを安定的に接続でき、従来のLNG用鋼製ローディングシステムより断熱・密封性能を向上させた、フレキシブルホースを用いる方法を考案しました。世界で初めての実証となります」(新道副部長)。
液化水素の海上大量輸送は、まだ歴史上一度も実現していない。運搬には安全性を確保するためのルールづくりが必要で、承認機関である国際海事機関(IMO)は日本の提案を基に議論を重ねてきた。16年には日本が提案していた安全要求案が正式に承認された。

つまり建造するパイロット船は、世界初の液化水素運搬船であるという技術的な貢献に留まらず、液化水素の安全輸送の国際標準ルールを実証し、リードするものになる。
「まだ1隻も現物がないので、IMOルールも暫定的なものです。パイロット船が世界初の液化水素運搬船として承認され、運航を重ねていけば、その成果が国際ルールづくりに反映されるのです」(新道副部長)。
このように世界初の技術を実証していくにあたって、HySTRAではメーカーとユーザーが一体となって、安全第一で着実な遂行を重ねて実用化を目指している。

液化水素の専用運搬船のイメージ図(左)と、神戸空港島に設けられる荷役基地の完成予想図。安全輸送と貯蔵のためにいずれにも世界初の断熱・密封技術が盛り込まれる。

つかう

〜水素ガスタービンによるコージェネ〜市街地での大規模発電により
設備能力と安全運用を立証

  • 足利 貢副部長
    技術開発本部 水素チェーン開発センター
    プロジェクト管理部

18年4月19日と20日に、世界で初となる実証実験が成功した。神戸ポートアイランドにおける「市街地でのガスタービンによる純水素を燃料とした熱と電気の同時供給」だ。
神戸市の旧港島クリーンセンター敷地内の一角に設けられた発電・ボイラ設備から、近隣のスポーツセンターや市民病院など4施設に、コージェネレーションシステム(以下、CGS)として電気と熱(蒸気と高温水)を供給することに成功したのである。スポーツセンターでは高温水がプール用、給湯用、暖房用に、市民病院では蒸気が給湯用、暖房用、医療器具の滅菌用に使われた。供給されるエネルギーは、電気が約1,100kW、熱が約2,800kWだ。

神戸水素発電実証システム概念図(2018年6月現在)

水素を燃料とするガスタービンを軸に電気と熱をつくるこの取り組みは、「水素CGS活用スマートコミュニティ技術開発事業」と呼ばれ、NEDOの水素社会構築技術開発事業として、地域レベルでの電気、熱、水素の各エネルギーの効率的な利用を可能にするエネルギーマネジメントシステム(統合型EMS)の開発と実証を行っている。

ガスタービンや発電・ボイラ設備は川崎重工が設置し、統合型EMSの開発は大林組が進めている。今後も同様の供給実験が繰り返される予定だ。
川崎重工技術開発本部水素チェーン開発センタープロジェクト管理部の足利貢副部長は、「季節毎の需要の変化に伴うガスタービンの性能の変動を検証したり、統合型EMSの制御手法を確立したりするために、様々なデータを収集するのが実証実験の目的です。収集、分析されたデータは、レベルの高い実用的なノウハウを創造するために不可欠なものになります」と語る。
設置されているガスタービンは、川崎重工が開発を進めてきたものだ。水素、天然ガスそれぞれを単独で燃料にすることも、両者の混合燃焼も任意の割合でできるフレキシブルな性能を備えている。

このガスタービンは、水素、天然ガスそれぞれの単独燃焼だけでなく任意の割合での混合燃焼もできる。上の写真は、混合割合の違いによるノズル部分の火炎の様子を示している。また高温で炎に広がりがある水素の燃焼は、機器を傷める要因となるが、それを解決するためにガスタービンの本体はそのままに、水素用燃焼器を新たに開発した(右画像の縦の筒部分)。

水素だけを燃料にする場合、水素の火炎は高温で広がりが早いためにバーナーを傷め、NOxが発生しやすいという課題がある。これに対して川崎重工は、燃料噴射弁の形状を工夫したり、水と燃料を一緒に噴射する方法の採用などで課題を克服してきた。
足利副部長は、「実証実験の最大の成果は、市街地という生活圏でも水素エネルギーを安全に運用できると証明したことにあります」と語る。ガスタービンだけでなくプラント全体の設計や施工が、十分に安全を確保したものになっているのである。つまり大規模な施設であっても、水素を使った実用的な発電ができることを設備能力と安全運用の両面から立証したのだ。

Kawasaki NewsKawasaki Heavy Industries Quarterly Newsletter
川崎重工グループの和文PR誌として、多彩な製品群が陸・海・空に亘る各分野で活躍する姿と、新製品・新技術の一端をご紹介しています。

Kawasaki Group Channel