Apr. 2018

熱の力
〜「快適」を支える主役たち〜

ボイラや吸収冷温水機のパイオニアとして、快適な暮らしを支えている川重冷熱工業。
ボイラ事業は2019年に創業120周年を迎える。熱のスペシャリストたちが届ける「熱の力」を探った。

  • 柳田 高秀部長
    川重冷熱工業
    技術総括室ボイラ開発部
  • 染矢 耕一部長
    川重冷熱工業
    技術総括室開発部

命の最前線を支える
ボイラと吸収冷温水機

阪急電鉄高槻市駅に隣接し、JR高槻駅からも徒歩5分の大阪医科大学附属病院。29の診療科と14の中央診療部門で約1,800人の病院スタッフが、1日に約2,000人の外来患者と882の病床を支えている。北摂地域における地域医療の要となっている病院だ。
2016年3月、6階建ての中央手術棟が竣工した。計20室の手術室があり、ロボット手術室や心・脳血管X線撮影装置を組み合わせたハイブリッド手術室などもある。手術棟としては西日本最大の規模を誇っている。
最先端の命を守る戦いの場を支えているのが、川重冷熱工業のボイラと吸収冷温水機だ。ボイラで発生させた蒸気は、医療器具の滅菌や熱交換器を通して病院内の空調用、加湿用などとして利用される。一方、吸収冷温水機で発生させた冷温水は、病院全体の冷暖房に利用される。
大学と附属病院の一切の施設整備・管理を担う大阪医科大学総務部施設課の堤克彦課長は、「ボイラや吸収冷温水機は、すべての医療活動の基礎となるエネルギー源であり、24時間眠ることのない病院にあってはまさに〝生命線〟となるものです。だからこそ安定して稼働する高い信頼性が求められています」と説明する。

大阪医科大学附属病院で稼働する吸収冷温水機「エフィシオ」。2台で手術棟の空調のすべてを担っている。病院では冷房と暖房が別のラインになっており、両方を組み合わせることで手術環境の変化に応じた温度と湿度管理ができる
大阪医科大学と附属病院のすべての設備管理を担う堤 克彦施設課長(中)と、設備稼働を支援する川重冷熱工業西日本支社の池田 恵吾ボイラグループ長(左)、林田 兼久業務グループ長(右)

設置されているのは小型の多管式貫流ボイラ「KF-A」が3台。1台の大きさは幅が1.1m、長さが1.7m、高さが2.1mというコンパクトさだ。これで1台あたり1時間に1トンの蒸気を発生させる。一方、吸収冷温水機は「Efficio(エフィシオ)」が2台。1台あたり180冷凍トン(家庭用エアコンの6畳タイプで約265台相当)の冷暖房能力がある。
今回、附属病院では初めて多管式貫流ボイラ(以下、貫流ボイラ)を導入したが、その理由を堤課長は、「川重冷熱のものづくりの確かさとメンテナンス体制の迅速さ」と断言する。
「ボイラは、メンテナンスをきちんとしていれば20年以上も使えるものです。川重冷熱さんが、使い捨てではなく長く使ってもらえるにはどうすればよいかという思想で製品を開発しているのに共感しました」(堤課長)。
もうひとつが、故障発生時のメンテナンス担当者の対応の迅速さだ。病院だけに故障は、その使命を阻害させかねない。
「これまでは主に吸収冷温水機でのお付き合いでしたが、故障時の対応が極めて迅速で、担当者をコロコロ変えずに一緒に病院を守ってくれる体制を取ってくれていました。命を守る現場を支えるための使命感の高さ。これが半世紀も続くお付き合いの最大の理由です」(堤課長)。

創業120年と
業界最長保証への自信

40年ほど前に、堤課長が大阪医科大学に設備技術者として就職した際、附属病院外来棟の地下には、「1968年に設置された蒸気式吸収冷凍機があり、『汽車製造』という銘板が貼ってあったのをよく覚えています」という。「汽車製造」とは、川重冷熱の前身で、民間会社としては国内初の機関車を完成させた汽車製造株式会社のことである。同社は1899年(明治32年)には炉筒ボイラを完成させている。つまり川重冷熱は2019年に「ボイラ創業120周年」を迎える。
ボイラは、言うまでもなく産業革命をけん引した蒸気機関のひとつとして発展してきた。現在、国内の蒸気ボイラ市場の9割が貫流ボイラで占められている。

貫流ボイラとは、多数の伝熱管(パイプ)を並べ、管同士を「フィン」と呼ばれる鉄板で溶接、筒状にしたボイラだ。筒の上部に設けたバーナーでガスを燃やし、常に循環している水を管の下側から供給すると、水は熱せられて上部側に蒸気として流れていく。
管内にある水量が少なく、保有するエネルギー量が少ないので、圧力破壊などへの安全性が高い。また、スイッチを入れてから蒸気が発生するまでの起蒸時間が短いなどの特長がある。運用面でも、小型ボイラならばボイラ技士の資格取得者の配置を必要としないため、小型の貫流ボイラを多数設置することで必要な蒸気発生量を賄う、というのが近年の導入スタイルになっている。

シンプルな構造だけに技術的には成熟しているが、川重冷熱工業ボイラ開発部の柳田高秀部長は、「当社は、燃焼、熱交換、制御、溶接の4つで高い技術力を発揮しています」と語る。
例えば排気ガスの再利用と伝熱性能の高いフィンを組み合わせることで、供給された総熱量に対してボイラ水と蒸気に吸収された熱量の割合であるボイラ効率は98%にまで高められている。また、使われる蒸気量の負荷の変動と蒸気圧力を一定にする制御技術などにより効率的な運転を実現している。
高い技術力を象徴しているのが、「気水分離器」だろう。他社製の貫流ボイラでは、水を直接伝熱管に配水するが、川重冷熱製ではボイラの排熱で水を温め、さらに気水分離器を経由してから配水する。

川重冷熱の貫流ボイラの「気水分離器」は、運転負荷が変動した場合でも、より乾いた蒸気を実現する。管に注入される水は一度、気水分離器に入ってから各管に回ることでサーマルショックがなくなり、結果として給水中の溶存酸素を低減し腐食が防がれる。一方、分離器に入った気水混合物は、旋回羽根で遠心スピードを上げ、さらに反転分離を組み合わせることで乾き度が上がる。その乾き度(蒸気と液体との混合状態である「湿り蒸気」の中の蒸気の割合)は99.5%以上であり、関連設備の腐食が防がれるだけでなく本体の過熱を防止する。

「伝熱管に直接水を入れると、伝熱管内で温水と冷水が急激に混じり合って衝撃(サーマルショック)が発生し、水分中の溶存酸素が放出されて管を腐食させます。しかし気水分離器を通じて常に一定の水位を維持するとサーマルショックが起きず、結果的に腐食が抑えられ、蒸気の圧力変動も最小限にできます。何気ないようなことですが、長く使っていただくための工夫がたくさん盛り込まれています」(柳田部長)。
川重冷熱では、ボイラ製品は年間保守契約の締結などの一部条件はあるものの、業界最長の15年保証を付けている。
「最長保証は、私たちの自信そのものの表れでもある訳です」(柳田部長)。

川重冷熱のボイラができるまで

01

貫流ボイラの筐体(きょうたい)となるパイプと鉄の板(フィン)が用意される。小型の蒸気発生量2,000㎏/hのタイプでは51本のパイプが使われる

02

ボイラづくりの最大の肝は「溶接」。パイプとフィンを溶接でつなぎ、円筒形の本体をつくる。工場では溶接ロボットも活躍している

03

溶接漏れがないかの検査の後、本体ごと「焼鈍(しょうどん)」することで残留応力を除去。高い圧力にも耐え長寿命化する

04

各種のセンサなどを装塡(そうてん)してボイラ本体に断熱シートを「纏わせ」れば、ボイラづくりも最終段階

05

ボイラにカバーケースをかけていく。扉パネルには制御装置が組み込まれており、通信回線を通じて遠隔監視される

世界初を相次ぎ開発
トップシェアの吸収冷温水機

吸収冷温水機でも小型化、高効率化が進んでいる。吸収冷温水機とは、水が蒸発するときに気化熱を奪う、夏の打ち水の原理を取り入れた技術だ。また冷媒に地球温暖化係数の高いフロンや代替フロンを使用せず「水」を使用した環境にやさしい大型セントラル空調機である。川重冷熱は、1968年に世界で初めて直焚き式二重効用機の商品化に成功しただけでなく、2005年には世界で唯一、直焚き式三重効用機の商品化に成功している。
川重冷熱開発部の染矢耕一部長は、「三重効用機はCOP*1.74を達成。二重効用機に対し、CO2排出量は35%減、年間のランニングコストを約350万円節減できます。高温再生器には貫流ボイラの缶体を採用しておりボイラと吸収式の技術を有する当社だからこそ実現できた商品」と解説する。

吸収冷温水機は、再生過程で多様な熱源を利用できるのも大きな特長だ。ガスの他に油、コージェネレーションシステムの排熱、大型エンジンの暖まった冷却水等々。また、「エフィシオ」には都市ガスと油の両方を切り替えて使えるモデルがあり、医療機関を中心に採用されている。これには重要な意味があり、「大規模災害が発生した際、医療拠点となる災害指定病院にとって、都市ガスが遮断された場合には油焚きに切り替えて医療を継続できます。いわばBCP(事業継続計画)の要になるのです」(染矢部長)。
吸収冷温水機の市場では、川重冷熱は容量ベースで25%とトップクラスのシェアを持つ。それも世界初となる技術を相次いで投入し、メンテナンスも含めてユーザーの多様な課題に応えられる体制を整えてきたからだった。

*COP=Coefficient of Performanceの略で、「成績係数」とも言う。冷凍機などのエネルギー消費効率を示す指標で冷房(暖房)能力を消費エネルギーで除して算出し、数値が大きいほど定格条件におけるエネルギー消費効率がよい。

小型貫流ボイラ「WILLHEAT(ウィルヒート)」

小型貫流ボイラ「ウィルヒート」投入で、
多様なニーズに応える

川重冷熱は貫流ボイラでは、2000年に投入した大型の「イフリート」に続き、16年には小型の「ウィルヒート」シリーズを投入。より幅広いニーズに対応できるようになった。
18年4月には「ボイラ開発部」を新設。次世代の貫流ボイラの専任開発チームであり、ボイラ需要が高まりを見せている東南アジア市場への対応も視野に入れる。柳田部長は、「ボイラ技士の資格のいらない小型サイズで、最大蒸発量を従来よりも1.5倍にした製品を開発したい。水の流れ、流速、循環などあらゆる動きの効率向上策を探っていく」と語る。
一方、吸収冷温水機でも、運用方法の改善や多様な熱源への対応などに力が注がれている。染矢部長は、「期間効率と呼ばれる季節毎の稼働負荷を平準化させる技術や、60℃以下の低温排熱の利用技術など、お客さまの状況に柔軟に対応できる技術改良を進めたい」と考えている。
熱の力を存分に引き出し、快適な現在と未来をつくる。決して目立った存在ではないが、川重冷熱は私たちの暮らしを静かに支えているのだ。

For the Tomorrow

水素焚き貫流ボイラの実証実験装置。赤いタンクに水素が入っている

水素焚き貫流ボイラで実証実験を開始

川重冷熱工業では、2018年3月から水素を燃料として燃やす貫流ボイラの実証試験を開始した。来たるべき省エネ社会の切り札と言われる水素だが、製鉄所や化学工場などでは製造過程で発生する「副生水素」の処理が大きな課題になっている。水素焚き貫流ボイラの実証化は、喫緊の環境問題に応えるものともなる。
水素は燃やすと火炎温度が高くなるため、多くのNOxが発生してしまう。従来は水や蒸気を活用して低NOx化していたが、実証実験ではバーナーの形状を工夫するなどし、水や蒸気を使わない方法で低NOx化する技術を実用化する。実験には川崎重工技術開発本部も協力し、2019年の商品化を目標にしている。

Leader’s Voice

By 能美 伸一郎 Shinichiro Noumi

川重冷熱工業株式会社 代表取締役社長

熱のスペシャリストとして
絶えざる革新に挑んでいます

川重冷熱では、ボイラ分野が2019年に創業120周年を迎える一方、吸収冷温水機では二重効用機や三重効用機を世界で初めて開発するなど、いずれの事業でも「熱のスペシャリスト」としての技術を提供してきました。
また、全国3支社、13支店を拠点とするメンテナンスネットワークでは、全従業員500人の3分の1がメンテナンススタッフとして活躍しています。さらに設置された機器の運転データをセンターで収集・監視して最適な運転管理をサポートする「テレメンテアドバンス」の高度化にも着手しています。現在開発中の第3次システムは、川崎重工が開発しているIoTプラットホームに準拠しています。
ボイラでは小型の貫流ボイラ「ウィルヒート」の発売を契機に、お客さまから期待の声を多くいただきました。しかしながら「ウィルヒート」のような設備を必要とされながらも、私たちがまだ充分に捕捉したり開拓できていない市場が多く残されています。業界最長の15年保証と、「機器+保守+腐食防止薬品」の3つをセットにして提供することで、お客さまに長く、安心してご利用いただける体制の充実に努めていきます。
また、川崎重工のガスタービン、ガスエンジンの排気ガスによる排熱を利用したコージェネ用排熱ボイラの販売にも力を入れており、川崎重工とのより一層のシナジー強化を進めていきます。

川崎重工とのシナジーが発揮されている排熱を利用するコージェネ用排熱ボイラ

吸収冷温水機では、これまで廃棄されていた「廃熱」をキーワードに多様な熱源への対応を進めていきます。多様な熱源を利用できる装置は、大災害発生時の事業継続にも深く関わるものであり、電気式の空調システムにはない大きなメリットとなります。
今後は海外にも注力し、特にメンテナンスを受け入れやすい文化のある東南アジアでの活動に力を注ぐ予定です。ボイラや吸収冷温水機は技術的には成熟していると言われますが、熱のスペシャリストとしての技術蓄積と、「長く使える製品」というお客さまからの信頼をベースに、さらなる技術革新に挑んでまいります。

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