細胞自動培養装置の事業開始-創薬研究用途向け自動培養装置を発売-

2008年06月12日

川崎重工はカワサキプラントシステムズと共同で、細胞自動培養装置の製造・販売事業を開始し、7月から創薬研究用途向けに新発売します。
当社は、2006年12月に再生医療向けの試作機を発表し、信州大学医学部附属病院先進医療推進センターにて実証試験(※1)を行っており、その成果を活用して新たな装置を開発したものです。

本装置は、クリーンロボットを中心に、培養操作を自動化し、創薬研究用途で必要とされる接着系細胞(注(1))の自動培養を可能にします。多種類の細胞の培養が容易に実現できますので、高次スクリーニング(注(2))用の細胞培養にも使用できます。
当社は、今回の事業開始に先立ち、本装置について自社工場内で試験を実施し性能を確認するとともに、独立行政法人産業技術総合研究所(※2)から、本装置について高品質な細胞の培養に適した安定性や、ユーザに使いやすい操作性という観点で性能評価を受けています。

本装置の特長は次のとおりです。

(1) 手培養をそのまま自動化

本装置は培地交換、継代、細胞回収、細胞観察(注(3))という手培養で行っていた一連の手法を、そのまま、自動化しています。継代は遠心分離を使用し、細胞の剥離時には、タッピングやピペッティング(注(4))も行います。

(2) 多様な細胞への対応

一般的な細胞の培養パラメータを標準で装備するとともに、高次スクリーニングで使われる多くの細胞への適用拡張もユーザ自身で行えます。一般的な培養操作がプログラム化され、継代時の剥離時間、薬液の量、ピペッティング等の回数など、多くのパラメータをユーザが決められます。特殊な細胞で必要となるコーティングディッシュの使用も可能です。

(3) 画像認識による培養支援

画像処理装置を装備し、装置内で細胞観察が行えます。自動記録も行えます。細胞の回収や継代のタイミングの決定を支援します。

(4) 培養スケジューリング機能

毎回の培養操作が自由にスケジューリングできます。スケジュールは細胞の培養完了時間を基準に設定できますので、必要なときに細胞の提供が可能です。

(5) 細胞品質の安定性/均一性

自動操作による培養作業のため、培養性能/品質の安定性、均一性が実現できます。

(6) 汚染防止

装置内はクリーン度100(注(5))、操作はクリーンロボットが行いますので、培養する細胞への汚染が防止できます。また、ピペットに使用するチップは、毎回、滅菌済みのものをディスポ(注(6))で使用します。アルコール自動噴霧による除染機能を装備し、交差汚染を防ぎます。

(7) コンパクトなサイズ

装置はクリーンロボット、培養操作部、インキュベータ(注(7))、画像処理装置などによりコンパクト(幅約3m、奥行約1m、高さ約2m)に構成され、従来の装置(4面とも壁付け不可)と異なり2面を壁付けできるため研究室等への設置も容易です。

当社は、本装置を7月2日~4日に開催されるバイオEXPO(東京ビックサイト)に出展するとともに、関連した学会発表を、6月24日の日本動物細胞工学会(首都大学東京)と7月12日の日本炎症・再生医学会(東京・都市センターホテル)で行います。
なお、本装置の開発は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の委託開発事業(※3)によって実施されました。
当社は、今後ともロボット技術をはじめとする自動化技術、生産技術などの応用に取組み、医療分野における貢献を目指していきます。

※1 試作機による実証実験:本装置の開発、特に培養プロトコルおよび臨床面での技術指導では大阪市立大学の脇谷滋之准教授(信州大学医学部附属病院 臨床特任教授)の協力を頂いています。

※2 独立行政法人産業技術総合研究所の植村壽公(としまさ)研究リーダーに協力を頂いています。この評価は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「再生・細胞医療の世界標準品質を確立する治療法および培養システムの研究開発」(健康安心プログラム-基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/橋渡し促進技術開発)にて実施されました。

※3 委託開発事業:JSTの産官学連携による助成制度の中でも実用化を目的とした最終段階に位置付けられる制度で、本開発は北海道大学の髙木睦教授と当社の共同出願特許等を技術シーズとして平成16年度に採択されました。

<用語の解説>

注(1)接着系細胞

細胞には、培養時、培養容器の底に接着し、増殖する接着系細胞と、培養液(培地)の中に浮遊した状態で増殖する浮遊系細胞があります。

注(2)高次スクリーニング

創薬では、製薬企業が持つ新薬候補の多くの化合物から、新薬候補を選ぶスクリーニングを行います。順番に、1次スクリーニング、2次スクリーニング、高次スクリーニングと、スクリーニングを重ね、候補を絞り込みます。1次スクリーニングでは、化合物をタンパク質に作用させ、その結果で、スクリーニングを行います。2次スクリーニングと高次スクリーニングでは、タンパク質の代わりに細胞を使いますが、2次スクリーニングでは少数の細胞を多量に使用し、高次スクリーニングでは、量は少ないが、多種類の細胞が必要となります。本装置では、多種類の培養が行えることが、大きな特徴です。

注(3)培地交換、継代、細胞回収、細胞観察

培養容器中で培養される細胞は、培養液(培地)の中で育ちます。1~2日に1回程度、培地を交換するのが培地交換です。細胞が増殖すると、もうこれ以上は増えない一杯に増殖した状態(コンフルエント)になり、そのままでは、細胞は死んでしまいます。一般的には、トリプシンという消化酵素を使用し、細胞を培養容器の底から剥がし、何枚かの培養容器に播き直します。これが継代(継代培養)です。このとき、細胞を播き直さず、装置から出して、実験等に使用する場合は、細胞回収となります。細胞観察は、位相差顕微鏡(一般の光学顕微鏡では、細胞は透明のため、見ることができません)を使って、観察するのが細胞観察です。当社では、CCDカメラを使って、細胞観察を実現しました。

注(4)タッピングやピペッティング

継代培養や細胞回収で培養容器の底に接着した細胞を剥がすとき、トリプシンを使います。トリプシンは消化酵素のため、量を多くしすぎると、細胞を痛めます。そこで、トリプシンの量を少なくし、培養容器の底をコツコツとたたく(タッピング)ことや、ピペットの培養液を吸い込み、培養容器の底の細胞に吹きかけて剥がす(ピペッティング)ことで、細胞の剥離を促進します。

注(5)クリーン度100

培養操作は、無菌(細菌やウィルス、カビがない状態)の環境で行います。その基準がクリーン度100で、1ft3(立方フィート)中、0.5μm(ミクロン)以上の粒子が100個以下という基準です。

注(6)ディスポ

培養操作で使用する用具は、無菌状態が必要ですので、滅菌したものを使います。1度、使ったものは、洗浄、滅菌し、再使用するものと、洗浄・滅菌が困難な場合は、無菌を第一に考え、使い捨て-ディスポーザブル-とします。

注(7)インキュベータ

細胞を培養するために、最適な環境を実現する機器。本装置の場合は、37℃、湿度100%、CO2濃度5%を常時維持している。


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