欧州合同原子核研究機構(CERN)よりATLAS Award 2002を受賞

2002年10月22日

 

川崎重工は、欧州合同原子核研究機構(以下CERN、本拠地:スイス・ジュネーブ市)より、トロイド型先端素粒子検出器(以下ATLAS検出器)の液体アルゴン電磁カロリーメーター低温真空容器(以下 バレルクライオスタット)の製作において、特に優れた技術力、プロジェクト管理を発揮したとの評価を受け、Award 2002を受賞しました。

CERNは7兆電子ボルト、1周27km(JR山手線1周の約80%相当)にも及ぶ大型陽子・陽子衝突型加速器(以下LHC、Large Hadron Collider)を、スイスとフランスの国境に2005年運転開始の予定で建設中です。本施設は物理学の基礎研究施設で、陽子同士を高エネルギー状態で衝突させることにより、宇宙の起源とされるビッグバンを再現し、かつ物質に質量を与えるといわれる未知の素粒子であるヒッグス粒子の発見を目的としています。

当社は1998年8月に、米国ブルックヘイブン研究所よりCERNがLHCのリング上にあるATLAS検出器に取り付けられる「バレルクライオスタット」を受注し、2001年7月にCERNに納入しました。バレルクライオスタットは、ATLAS検出器の中心部に据え付けられるもので、米国ブルックヘブン国立研究所が設計・調達・建設を担当している低温容器です。重量約35 t 、長さ約7m、直径約5.5mの耐放射線性に優れたアルミニウム合金製シリンダーで、電子やガンマ線のエネルギーと位置測定などを行なうカロリーメーターを内部に保持するための構造物です。内筒・外筒の二重殻構造になっており、運転時にはマイナス186℃の液体アルゴンが内筒内に注入され、内筒と外筒の間は断熱のため、10-5Torr(トール)という高真空に保持されます。なお、バレルクライオスタットは当社の保有技術、実績を評価する事前資格審査で絞られた国際競争入札を経て、受注しました。

今回の受賞は、バレルクライオスタット製作途上での研究ニーズに基づく設計変更の要請にも、細かく応対し、厳しい要求精度を満たす製品を完成させたことが評価されたもので、当社播磨工場におけるバレルクライオスタット製作に対して授与されたものです。なおCERNからのAward 2002と同時に、注文主であるブルックヘイブン研究所からも、高い技術力による本プロジェクト遂行に対して、表彰を受けました。

当社はCERN向けに、バレルクライオスタット以外にもCMS(特殊磁場素粒子検出器)に据付けられる「エンドキャップヨーク(特殊磁場シールド)」を1998年12月に受注しており、その製作に関して2001年3月にCERNより、特に優れた技術力、プロジェクト管理を発揮した業者に贈られる「Crystal Award 2001」を2001年3月受賞しています。

当社は加速器分野として、国内ではKEK(文部省(現文部科学省)高エネルギー加速器研究機構)トリスタン検出器用機器をはじめ、放射光用としては世界最大の電子蓄積リングSpring-8用機器の納入実績があるとともに、海外では、SLAC(スタンフォード線形加速器センター)向けに素粒子検出用防磁構造体をはじめ各種検出器用機器の納入実績があります。また、加速器システム全体としても、自由電子レーザ装置の開発を1990年より行なっており、1992年には世界で初めて可視光域自由電子レーザの発振に成功、1998年には世界最短波長の自由電子レーザを発振、2000年には光利用を目的とした赤外自由電子レーザの発振にも世界で初めて成功しています。

今後も当社は、物理学、化学をはじめ医療、機械、材料など、さまざまな分野に活用できる加速器技術での社会的貢献を行なうとともに、加速器分野でのこれまでの数多くの納入実績、経験を活かして、国内外を問わず積極的な営業活動を展開します。