人間型ロボットで産業車両の運転ができる可搬型遠隔操作システムを開発

2002年03月18日

 
 

川崎重工は、人間型ロボットの操縦を目的とする、小型・軽量で持ち運ぶことができる可搬型遠隔操作システムを開発しました。このシステムは、災害現場や土木建設現場などで作業する人間型ロボットを、操作者が遠隔地から人間型ロボットの状況や作業現場周辺の環境を高臨場感で体感しながら操作できる遠隔操作システムです。

この遠隔操作システムは、ロボットのアームの動きを指示する「マスターアーム」2台と、脚部を制御する「マスターフット」、そしてマスターアームとマスターフットを統合制御する「制御装置」から構成されます。これらの機器は作業現場への運搬のため、軽量化して専用のケースに収納されるなど可搬性が考慮されており、ロボットを遠隔操作する際には、ロボットに搭載したステレオカメラからの映像を操作者に高臨場感で提示するために3次元映像提示システムを使用します。

当社は、2000年4月に人間型ロボットを高臨場感で遠隔操作できる、片腕7自由度を持つ「マスターアーム」とロボットの歩行やバランスを取る時の腰の動きを操作者に伝える「体感提示装置」で構成する、定置型の遠隔操作マスターシステムを開発しました。このシステムを用いて、当社は災害復旧現場などの危険な作業空間や土木建設現場などの悪環境下で、あたかも人間の分身として車両や機械の操作ができるシステムの構築を目指し、人間型ロボットが立った状態でフォークリフトを運転する試験を行ってきました。そして、2001年6月にはフォークリフトへの乗り込みから運転操作までを遠隔操作することに成功しています。

今回開発した可搬型遠隔操作システムは、定置型の遠隔操作システムをベースに、高い操作性と臨場感を持ちながら、装置のコンパクト化を図った簡易型のシステムです。当社は、この可搬型遠隔操作システムを使い、災害現場などの悪環境下で実際に使用が想定されるバックホウ(油圧ショベル)を、人間型ロボットが運転席に着座して操作する実験を行い、このほど遠隔での操作を実現し、可搬型遠隔操作システムの実用性を確認しました。

今回開発した可搬型遠隔操作システムの特長は、以下のとおりです。

□マスターアームの特長
(1) 人間の腕と同じ6自由度のマスターアームで、ロボットの双腕を同時に操作することができ、操作者にロボットのハンド部にかかる荷重を提示する力/モーメント提示機能を持ちます。
(2) DCモータによるダイレクトドライブ方式を用いることで摩擦を低くし、従来のマスターアームよりも操作力の低減をはかり、操作者の負担軽減を達成しています。
(3) 力/モーメント提示機能においては、手首部の機構を工夫することで操作者に力とモーメントを分離して提示することができ、高感度のマスターアーム操作を実現しています。
(4) ロボットハンドの開閉を指示するほか、多機能に利用することができる小型スイッチをマスターアームのグリップ部に新たに取り付け、操作の汎用性を高めています。
□制御装置の特長
(1) マスターアーム、マスターフットとの入出力(カウンター、DIO※1、ADDA※2)機能とIEEE1394※3によるホストとの通信機能を備えた、多機能でコンパクトな制御ボードを新規開発し、制御装置の数を大幅に低減しています。
(2) 制御ボードは、VxWorks※4、Linux※5などをOSとする、各種のホスト計算機で制御することが可能で、高い汎用性を持ちます。
□マスターフットの特長
  光ファイバーを用いて操作者の足首の位置・姿勢を計測することで、両脚分の指令を同時に行うことが可能です。

今後当社は、可搬型遠隔操作システムを使った屋外におけるバックホウの運転実験を行い、同システムの機能実証を行うとともに、遠隔操作システム技術の向上を図っていきます。

なお、本研究開発は経済産業省産技応用プロジェクト「人間協調・共存型ロボットシステム開発(1998~2002年度)」の中で実施されているものであり、バックホウなどの産業車両の運転実験は、東急建設株式会社、独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門(横井一仁主任研究員ら)と共同で行っているものです。当社は、東急建設、産業総合研究所とともに、2002年3月28日~31日にパシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)で開催される「ROBODEX2002」にて、人間型ロボットによるフォークリフト運転のデモを行います。

※1:Digital Input/Output
※2:Analog/Digital変換、Digital/Analog変換
※3:IEEEにより規格化された高速シリアル通信プロトコル
※4:リアルタイムOS(Wind River Systems社の登録商標)
※5:UNIX互換でライセンスフリーのOS