成層圏プラットフォーム飛行船システムマルチセル方式供試体の浮力制御試験を完了

2001年07月02日

川崎重工は、総務省および文部科学省が共同で進めている「成層圏プラットフォームの研究開発」の一環として行われるミレニアムプロジェクトのうち、定点滞空飛行試験の予備実験に使用する飛行船の試験試体を、航空宇宙技術研究所からの委託により当社播磨工場で製作・納入したのに続き、同供試体を用いた浮力制御試験を完了しました。この試験供試体は定点滞空試験機に採用を検討している、新しい構造様式の成立性や能力等の確認のため、今後も様々な実験に使用される予定です。

成層圏プラットフォームとは、気象条件が比較的安定している高度20km程度の成層圏に浮かぶ巨大な無人飛行船に通信機材や観測センサーなどを搭載して、超高速インターネットやデジタル放送、携帯端末や自動車からの移動通信といった新しい通信・放送、海洋・陸域・大気の状態を調べる地球観測、山火事や赤潮など様々な災害監視を行う基地として活用するものです。この研究開発は、総務省と文部科学省が共同で、官民合同の成層圏プラットフォーム開発協議会とも協調して取り組んでいます。

当社が航空宇宙技術研究所より委託を受けて製作した試験供試体は、全長21.5m、全高10.2m、重量450kgのものです。従来の飛行船には無い全く新しい構造様式(船体内部を3つのセルに分割したマルチセル方式)を採用しており、各セルには高度制御や姿勢保持のために空気を船体内外に出し入れするブロワや排気弁を設置しています。気圧の低い成層圏で浮力を得るために船体を強く軽くする必要性があることから、船体にはザイロンという新しい素材(スーパー繊維)をもとに、気密性を持たせた膜材を使用しています。

また当社播磨工場では、試験供試体の完成後、マルチセル方式船体の成立性の確認や同方式による浮力制御データの取得などを目的として、試験機の上昇・降下・一定高度保持制御、姿勢角制御などの浮力制御性能試験を実施してきたことに加え、船体各部の強度や剛性を確認する船体様式評価試験など、技術的なデータの取得を行ってきました。この試験の成功で、高度4kmの定点に留まることができる全長60mクラスの飛行船(定点滞空試験機)の開発にひとつの目処が立ちました。

なお、将来の実用機では、搭載する通信・放送用のアンテナや中継機、地球観測用カメラ、データ送信機などの機器を、気圧の低い成層圏の高さまで上げるために、全長150~250mクラスと超大型のものになる予定です。また飛行船に搭載される太陽電池と再生型燃料電池によって、飛行船成層圏で長時間運航する電源を自ら供給するとともに、GPSセンサー等で滞空位置や姿勢を確認し、船内の空気量の調節と船体のプロペラによって姿勢制御を行うなど、自律型の無人機としても画期的なものになります。今後とも当社は成層圏プラットフォームの研究開発を通じて、航空宇宙分野への事業展開を積極的に取り組んでいきます。