タイで再生・細胞医療の実証試験が本格始動 -再生・細胞医療で世界初の薬事承認を目指す国際実証プロジェクト-

2013年09月30日

NEDOがタイ商業省と共同で推進している再生・細胞医療プロジェクトにおいて、川崎重工業株式会社が開発した細胞自動培養システムの実験設備がチュラロンコン大学医学部研究棟内に完成、運転を開始します。このシステムはタイの動作環境やインフラに合わせた設計となっており、今後、同大学でシステムが稼働し、タイ国内での再生・細胞医療の研究が本格化します。本プロジェクトでは、実証試験の完了後、再生・細胞医療の薬事承認を取得するとともに、タイにおける臨床実績の蓄積を目指しています。

1.実証事業の概要

 このプロジェクトは、NEDOとタイ商業省貿易交渉局との間で2012年11月に締結した基本協定書(MOU)に基づき、日本側(武庫川女子大学、川崎重工業株式会社、大阪大学、株式会社ディーエスピーリサーチ;研究開発責任者は武庫川女子大学の脇谷滋之教授)とタイ側(チュラロンコン大学、シーナカリンウィロート大学、マヒドン大学、アースクラップクリニック社)との間で協力して実施しているものです。NEDOは、経済発展が著しい東南アジアの中でも再生・細胞医療ニーズが高くなると期待されるタイにおいて、日本の高度な技術を用いて、タイの医療技術・福祉の向上を目指します。

再生・細胞医療の臨床応用では、患者から採取した細胞を培養し、細胞の数を増加させて患者の患部に移植します。そのため、移植する細胞の製造(培養)及び品質管理に関する基準(Good Manufacturing Practice;GMP)を満たすヒト移植用の細胞培養施設(Cell Processing Center;CPC)において、細胞を培養することが従来は必要でした。しかし、CPCの建設・維持には多額の費用がかかる上、手作業による細胞培養には高度に熟練した技術者が必要であり、これらが再生・細胞医療の普及における大きな障害となってきました。

このプロジェクトで開発している「細胞自動培養システム(Robotized Cell Processing eXpert system;R-CPX)」は、川崎重工業株式会社が有する高度なロボット技術を活かして、CPCと同様の環境下で高品質かつ高効率な細胞培養過程を完全自動化することに成功したシステムです。このシステムを用いることにより、CPCや高度に熟練した技術者がいない医療機関でも、再生・細胞医療の臨床応用ができるようになります。そのための最初のステップとして、チュラロンコン大学に設置したR-CPXを用いて、関節軟骨の再生を対象に、臨床応用可能なレベルの高品質な細胞を効率良く調製できることを確認します。

これまでに、開発したシステムをチュラロンコン大学に輸送・設置し、基本的な動作調整を完了しました。10月からは試運転、タイ人スタッフへのOn-the-job training (OJT)による技術移管を行い、データ取得・評価による実証試験を本格化させていきます。

2.今後の展開

このプロジェクトで目指す自動化システムによる世界初の再生・細胞医療の薬事承認は、タイ保健省食品医薬品局(FDA)より、2014年頃に取得する計画です。さらに、川崎重工業株式会社が製造するR-CPXのタイにおける事業化にあたっては、軟骨再生を対象としたシステムから着手する予定です。

チュラロンコン大学に設置したR-CPXを用いた細胞培養評価により、一定の品質が担保された細胞培養がタイにおいて実現し、再生・細胞医療の実用化に弾みが付くと考えられます。さらに、R-CPXの持つ遠隔操作機能によって、専門医や熟練の技術者が居ない地域においても、世界最先端の再生・細胞医療を提供可能となります。このプロジェクトの推進により得られた成果は、タイの医療技術・福祉の向上に寄与するものと期待されます。

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図.細胞自動培養システム(R-CPX)

【R-CPXの仕様】

対象細胞:接着系細胞
培養能力:最大10インキュベータ(1インキュベータ当りフラスコ6個)
取扱容器:T175フラスコ、T500フラスコ、ハイパーフラスコ
装置寸法(W×D×H):6.4 × 1.65 × 2.4[m](4インキュベータの場合)
設置環境:クリーン度100,000(装置内部はクリーン度100)<
除染機能:過酸化水素蒸気による自動除染