事業等のリスク

経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは下記のとおりです。これらのリスクは、経営会議等での審議等を経て抽出しており、取締役会において連結財務諸表での重要性、影響度、網羅性を確認した上で選定しています。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。

(1) 経営成績の見通しに重要な影響を与える可能性があると認識しているリスク

  1. 地政学リスク

    米中貿易摩擦問題、台湾有事懸念、ロシア・ウクライナ情勢、世界各国における経済安全保障法制の強化など地政学リスクが高まっており、原材料価格及び物流費の高騰、エネルギー価格上昇、サプライチェーン問題などをもたらしています。
    当社グループの連結売上収益の約半分が海外向けであり、また、米国・中国をはじめとする多くの国に生産・販売拠点を構えています。原材料や部品についても、海外から多く調達しています。そのため、事業に関連する国・地域の政治、経済、社会、法規制、自然災害等の影響を受ける可能性がありますが、当社グループは、国際情勢の動向や各国の法規制の改正等を注視しつつ、状況の変化に迅速に対応できる社内体制を構築し、情報の共有及び対応策を実施しています。

  2. 調達品価格の高騰リスク

    コロナ禍からの本格的な経済回復、国内外のインフレ進行、ロシア・ウクライナ情勢の長期化等に伴い、原材料価格、人件費、エネルギー価格、物流費等の上昇が続いています。事業計画策定にあたっては一定のコスト上昇を織り込んでいますが、想定を超える価格の上昇が当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、コストダウン活動を継続しつつ、販売契約へのエスカレーション条項の織込みや調達品価格の高騰を適切に販売価格へ反映するなどの対策を行っています。

  3. 部品入手困難による生産遅延リスク

    米中貿易摩擦やコロナ禍の影響で半導体などの調達部品が不足しており、一部の製品において生産遅延が生じています。今後の部品調達の状況によっては、パワースポーツ事業やロボット事業を中心に販売が減少する可能性がありますが、代替品の活用や生産調整等の対策を実行し、利益の確保に努めています。

  4. 景気変動リスク

    景気変動は企業の事業活動に影響を及ぼし、売上収益等に影響する可能性があります。当社グループは、官公庁向けと民間向け、先進国向けと新興国向け、受注生産型と見込み生産型、B to BやB to Cなど、景気サイクルの異なる多様な事業でポートフォリオを構成しており、景気変動リスクを分散させています。
    また、社会情勢や国際動向を注視し、社会課題、市場ニーズ等に対応した開発・受注活動を継続することで売上収益を確保するほか、見込み生産型事業においては、販売や在庫の状況をモニタリングし生産調整をタイムリーに行うなど、景気が減速する局面においても経営成績及びキャッシュフローに及ぼす影響が最小限になるように努めています。

  5. プロジェクトの契約・履行に関するリスク

    当社グループは、過去に鉄道車両、エネルギー関連設備、海洋資源開発支援船など大型プロジェクトにおいて多額の損失を計上した反省を踏まえ、見積、契約条件、技術仕様等に対するリスク検知と適正な評価、実効性のあるリスク回避策の立案が重要と考え、受注前のリスクチェック機能を強化してきました。2020年度からは、過去の損失案件等から得た教訓を規律として社則化するとともに、過去の案件から統計的に導いた損失リスクの総量を自己資本に見合った範囲に抑えるリスク統制アプローチを導入しています。特に、契約条件・条項に起因して損失に繋がったケースが過去にあり、契約に関するリスクを低減するために、法務部門が契約書の最終確認を行っています。また、法務機能を担う人財の育成及び獲得、社外弁護士の活用等を通じて、より一層の法務対応力の強化にも取り組んでいます。
    さらに、受注後のプロジェクトについては、市場環境やその進捗状況において、経営成績等に大きな影響を与える可能性がある兆候を経営会議及び取締役会へタイムリーに報告し、モニタリング機能の強化にも努めてきました。現在履行中の大型プロジェクトのうち、北米向け地下鉄車両案件は、量産車の製造が本格化しており、社長直轄のタスクフォース組織において、プロジェクト遂行に伴うリスクを低減させるとともに、生産効率や製品品質をさらに改善させ、事業採算性の向上、利益の拡大に努めています。
    また、当社グループが取り組んでいる大規模水素サプライチェーン構築プロジェクトについては、NEDOグリーンイノベーション基金事業で採択された各種事業が、商用化に向けて始動しています。事業推進に際して、各フェーズで発生する問題を早期段階で認識し、リスクを最小限に抑えながら円滑にプロジェクトを進めるべく取り組んでいます。

  6. 訴訟に関するリスク

    当社グループは事業を展開するにあたり、契約条件の明確化、知的財産権の適正な取得・使用、各種法規制の遵守等により、トラブルを未然に防止するよう努めています。しかし、予期せぬ事象が生じた場合、損害賠償の請求や訴訟を提起されることがあり、当社グループの業績や財務状況、社会的信用等に影響を及ぼす可能性があります。一方で、取引相手先による契約不履行や当社グループが保有する知的財産権の侵害等が生じたときには、当社グループの権利保護を求めて訴訟を提起する場合があります。それらの対応にあたっては、弁護士等の外部専門家と連携する等、最善策を講じるための体制を整備しています。
    なお、当連結会計年度において、当社グループに重要な影響を及ぼす重要な訴訟に関しては、「第5経理の状況 1.連結財務諸表等(2)その他」をご参照ください。

  7. 為替変動に関するリスク

    当社グループの業績見通しにおいては、一定量の為替変動リスクが含まれています。そのため、実需の外貨建債権・債務に対し、投機的な要素を排除した形で日本円のディスカウントコストを考慮しながら為替予約等のリスクヘッジを行っています。また、パワースポーツ事業を中心として、為替影響分の価格転嫁、海外調達の拡大及び海外生産比率の増加等を通じて為替リスクの低減に取り組んでいます。
    現在、日米金利差拡大、日本の貿易赤字の影響等を背景とした円安は、売上収益には好影響を及ぼす一方で、調達価格やエネルギー価格上昇などのコスト増をもたらしています。日米の金融政策の動向、金融システム不安や地政学リスク顕在化等の影響により、為替相場の変動幅は大きくなっており、為替リスクに関する不確実性は高まっています。そのため、引き続き相場を注視するとともに、必要に応じて対策を講じていきます。

  8. 資金調達リスク・金利変動リスク

    当社グループは、金融機関からの借入や社債の発行等により資金調達を行っていますが、金融危機が発生する等、金融市場が正常に機能しない場合には、一時的に資金調達を想定通り行うことが難しくなる可能性があります。そのため、資金調達手段の多様化やコミットメントラインを含む十分な融資枠を確保する等の対策を講じています。また、市場金利の急激な上昇によって資金調達コストが増大した場合、支払利息等の金利負担増加により金融収支が悪化し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、固定金利での長期資金調達を行うこと等により、金利変動リスクの抑制に努めています。なお、金融機関からの借入金には、コベナンツ(財務制限条項)が付されていることがあり、コベナンツに抵触する事象が発生した場合、当該借入金についての期限の利益を喪失する可能性があるほか、その他の債務についても一括返済が求められる可能性があります。その結果、当社グループの信用力や財政状態に大きな影響を及ぼすこととなりますが、現在の財務状況に鑑みるとその可能性は低いと見ています。当社グループは引き続き財務体質の強化に取り組み、資金調達力の維持・向上を図るほか、サステナブルファイナンスを積極的に活用することで、資金調達の面からも当社グループビジョン2030の実現に向けて取り組んでいます。

  9. 品質管理リスク

    当社グループは、顧客ニーズや社会課題解決のため、多岐にわたる製品・サービスを提供しています。それらの製造・サービス提供過程においては、社内外の基準に則り厳格な品質管理を実施していますが、予期せぬ製品の欠陥や品質面での不備が発生した場合、発生した損害について賠償を求められ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
    当社グループは、2017年にN700系新幹線台車枠に亀裂が発生するという極めて重大なインシデントを引き起こしたことを重く受け止め、社内に品質管理委員会を立上げ、原因究明と再発防止に努めてきました。また、2019年度に全社的なTQM(Total Quality Management)を推進する専門組織を立上げ、TQMに則った業務遂行体制の構築、品質管理教育、全員参加での品質向上に努めてきました。今後のTQM活動においては、業務プロセスの整流化に加え、人の恣意性を排除したデジタル技術を用いた品質管理の導入を当社グループ全体で推進していく予定です。

  10. コンプライアンスに関するリスク

    当社グループの役員・従業員が法令違反行為や企業倫理違反行為等を発生させた場合、損害賠償請求や社会的信用の失墜、当社グループ製品の不買運動等に至り、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、「川崎重工グループ行動規範」を制定し、コンプライアンス違反を容認しない企業風土の醸成及び維持に努めています。また、社長を委員長とする全社コンプライアンス委員会を設置し、企業としての社会的責任を果たすために各種施策の審議・決定、遵守状況のモニタリング等を行っています。
    2022年6月に川重冷熱工業が製造・販売した一部の製品の検査などに関する不適切行為が判明しました。今後このような不適切行為を起こすことがないよう、外部の弁護士で構成する特別調査委員会での徹底した原因究明を踏まえた是正措置を講じるとともに、コンプライアンスの一層の強化を図り、再発防止に取り組んでいます。

  11. 情報セキュリティリスク

    当社グループは、社会インフラから消費者向け製品に至るまで、多様な製品を国内外に提供しており、重要な情報資産として多岐にわたる技術・営業情報や顧客情報を蓄積・保有しています。業務プロセスのデジタル化が進む中、社外からのサイバー攻撃は増加傾向にあり、重要情報の漏洩やシステム停止、その復旧を条件とした身代金要求といった事象に加え、工場の生産システムが攻撃を受けることで事業損失が発生するリスクも高まっています。このような事態に適切に対処するため、サイバーセキュリティ統括部門を中心に、管理ルールの整備、最新技術の導入、オペレーションの高度化によるサイバーディフェンス態勢の強化を推進しています。さらにeラーニングによる役員・従業員への情報セキュリティ教育や訓練等、ITリテラシー向上を通したリスク低減にも継続して取り組んでいます。

  12. 貸倒リスク

    当社グループは、国内外の顧客に対して代金債権を有しています。顧客の信用不安や契約不履行等により、債権回収に問題が生じた場合は、担保の充当や債権債務の相殺等により回収しますが、回収不能な場合は貸倒れによる損失が発生する可能性があります。当社グループは、取引開始前の与信管理を徹底するとともに、取引期間中は顧客の財務状況を定期的にモニタリングする等、貸倒リスクの低減に取り組んでいます。

[経理処理に関するリスク]

  1. 固定資産の減損リスク

    当社グループは、継続的に設備投資を行いながら事業活動を進めており、多くの有形及び無形の固定資産を有しています。現時点において、多額の減損を計上するような懸念事項はないと考えていますが、今後何らかの外部環境の変化により減損処理を行う必要性が生じた場合、損益が悪化するリスクがあります。なお、大規模事業投資(設備投資を含む)案件について、大型プロジェクトの受注前プロセスと同様、投資決定前のリスク審査を強化する取り組みを行っています。

  2. 繰延税金資産の回収可能性に関するリスク

    当社グループは、税効果会計を適用し、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異に対して繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産は、事業計画を基礎として将来の一定期間における課税所得の発生やタックスプランニングに基づき、回収可能性を検討しています。なお、将来の見通しに変化が生じた際は、回収可能性の見直しが必要となり、繰延税金資産の一部又は全部の回収ができないと判断された場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
    そのため、将来の見通しの変化等により事業計画にダウンサイドリスクが判明した場合には、繰延税金資産の回収可能性に関しての見直しの要否を適時に判断できるような体制を構築しています。

(2) 経済動向・社会・制度等の変化により事業活動の継続が困難となる重要事象

  1. 人財の獲得・維持

    人財の獲得・維持は事業活動の継続及び成長のための重要な経営課題と考えています。しかし、少子高齢化等に伴う労働力人口の不足、近年の人件費上昇や労働市場を取り巻く環境変化等によって人財の獲得・維持が困難となり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
    そのため、人的資本に関する基本方針「川崎重工グループ人財マネジメント方針」を掲げ、各種施策に取り組んでいます。施策の詳細については、「第2事業の状況 2. サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。
    また、労働力人口不足という問題に対し、当社グループはそのソリューションとして、離れた場所からでも社会参画を可能とするリモートロボティクス、輸送ニーズに対応した配送ロボット、無人輸送ヘリコプターなどの市場投入を迅速に行うことで社会課題解決に貢献していきます。

  2. 脱炭素化社会・ゼロエミッション

    当社グループが提供する輸送機器やエネルギーシステムの多くは、化石燃料をベースにしています。また、生産をはじめとする事業活動においてCO2を排出しています。脱炭素社会やゼロエミッションの到来によって、現在の製品・技術が各種規制によって使用不可となることや、顧客をはじめとする様々なステークホルダーへの価値を創出できなくなることで、事業そのものが淘汰される可能性があります。また、事業活動におけるCO2排出を削減するための莫大な追加コストが発生するリスクも存在しています。
    そのため、水素サプライチェーン商用化に向けた活動や、水素を燃料とする輸送機器・エネルギーシステム、電動機器など脱炭素社会に対応した事業に向けた研究開発を行うとともに、水素エネルギーを活用して2030年までに当社グループの国内事業所のCO2排出量を2030年までに実質ゼロにする等、様々な対策を進めています。さらに、当社グループの脱炭素ソリューションを社会や各ステークホルダーへと広げ、2040年にZero-Carbon Ready、2050年にはグループ全体でのCO2排出量の実質ゼロを目指します。

  3. 経済安全保障

    近年、地政学リスクが高まるなか、世界各国の政府が地政学的な課題解決のために、経済的手段を行使する場面が増加する等、経済活動と安全保障の関係が深くなっており、日本において経済安全保障推進法が成立しました。当社グループにおいても、重要な部品や原材料の安定的な確保、他国への技術流出の防止等の対応が、従来以上に必要となっています。そのため、経済安全保障に関する変化に対応すべく、2022年に経済安全保障推進に関する専門組織を設置し、国際情勢や各国の政策・法制度の動向等の調査・分析、各種リスクの評価を行う等、適切な措置を講じています。

  4. 開発投資

    当社グループは、社会課題の解決と持続的な企業価値向上のため、将来の収益が期待できる分野への研究開発投資や設備投資を行っています。開発の項目や内容の選定判断を誤ることで競合に対する競争力を失い、事業・製品のシェアを低下させるリスクがあります。また、水素利活用分野など基礎研究から実証、製品化へは長期にわたる投資が必要なものが多く、市場変化や顧客、競合動向、各国規制の変化等によっては開発戦略の見直しや撤退を迫られる分野もあり、過去には投入した開発費が回収できなかった事業も存在しています。開発投資が当社グループの経営に大きな影響を及ぼすことがないよう、対象分野の選定やその内容、人財投入計画等については、経営戦略や事業ポートフォリオ上の位置付けなども踏まえて決定し、進捗管理についても適宜フォローしています。


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